Across the Stream
 

 

午後になって風向きが変わった。
突風が混じって、チョコぼうの屋根がばたばたした。

「ユフィー、もうみんなを中に入れないとーー」
屋根の上からクラウドが大声で言う。

「おーけーー、わかったよーー」
4羽の親チョコボと3羽の子チョコボを追いたてるユフィ。

いよいよ風が強くなって、西の空から黒い雲が覆いかぶさってきた。

天気予報って、あたるものなんだなーと、妙に感心してしまう。

 

程なく、渇いた土に水の染み込むにおいがしてきた。

まったく、このあたりに降る雨ときたら、唐突という言葉をそのまま地でいくものすごさだ。ニブル村で雨といえば、春から夏へのいっとき、しとしと1ヶ月ほど、陰気に降ると決まってた。

大粒の雨が屋根を叩く。よくも修理をしておいたものだ。

 

あれ、1羽足りなくないか?
ムーがいない。うちで生まれた3羽のうち、一番あとで生まれたチビだ。
「ユフィ?」
ユフィもいない。

ごごー、ごごー、

チョコぼうごともっていかれそうな風。人間用の小さな扉から、雨と風とユフィが飛びこんできた。

「何やってんだよ、早く…?」
「どうしよう、…ムーが飛ばされたんだよ」

びしょぬれは言うまでもない。顔色も悪い。当たり前だ、ここの雨は信じられないほど冷たい。
体が冷え切って、ガチガチと歯の根があわないユフィにタオルを投げる。
「飛ばされたって」
「あ、アタシじゃどうにも…たすけてよ、クラウド…」
目を真っ赤にして体を震わせる。涙がぼろぼろこぼれてもうぐじゃぐじゃだ。

「行ってくるから!」
吹き荒れる嵐の中に飛び出すクラウド……

 

 

 

風に背中を押されながら子チョコボをさがしあるく。視界が悪い、体温が下がる。

「ムー、おーい」

一番のチビだから、まるで自分を見ているようだった。
あの頃…、
俺は弱くて、やせぽっちで、チビで、仲間外れにされたり、オトナたちから疎まれたり。強くなりたくて、ひとりでも泣かないようになりたくて、
それで、
ソルジャーになろうとしたんだっけ。

ムーも、よく上の2羽、マーとミーにつつかれたり、餌のときも弾き飛ばされたりしていた。そんなチビムーを、いや、3羽まとめてユフィは可愛がった。
どの子も同じように可愛がっていた。
女のコは不思議だ、母親になったことがなくても命を慈しむなにか特別な力があるのかな、

大騒ぎして世話をしているのに、ユフィが美しくみえるときがあった。
掃除をたのまれていたのに、気がついたら子チョコボを、いや、ユフィを眺めていることがあった。早く掃除しろって、文句を言われたっけ。

 

「ムー、」
くさむらががさがさとした。
「…ムー?」
「くえっ」
このあたりで一番太い木の幹に隠れるようにしてムーが風をよけていた。
「探したぞ、ムー、帰ろうな」

子チョコボを小脇に抱えると、今度は風に向かって歩き出した。
よかった、そんなに飛ばされていなかった。ケガはなさそうだし…

そのとき、背後に殺気を感じた。とっさによけた足元に激痛が走った。
鋭いカマがきらめいた。インセクトキマイラだ。

どうと転ぶ。

気配からして、何匹もいるようだ。
囲まれてしまった。
自分だけならこんなモンスター、どってことはない。でも、ムーが不安げに鳴いた。

切り抜けられるか?

子チョコボを胸に抱いて、クラウドは必死に痛い足で走った。ファームはもうそこなのに…

 

背中に雷が落ちたのかと思った。急に気力が沸いてきて、視界が良くなったように感じた。
走れる、
生きなくては、

ユフィ……、

 

 


のぞき窓から様子をうかがっていたユフィが、慌てて扉を開けた。
ごうごうと降り続く雨の中、クラウドは帰ってきた。

稲妻が走った。

ぱあっと明るくなった瞬間、クラウドが笑ったように思えた。

「ユフィ、」

ムーを手渡すと、力尽きて倒れてしまった。

 

おびただしい血、
背中が裂けていた。
途方にくれるユフィ。
嵐はますます烈しく吹き荒れる。
思いついたのは、ロケット村への救援だった。

 

 

 

助けを待つ間、傷を洗ってガーゼを当てた。

こんなことしても、後から後から血が流れるのに、でも、何かしないではいられなかった。
マテリアは、つい先日換金してしまった。まったく成長していない回復マテリアが1個、ケアルぐらいではとても間に合わない。バトルのときならこれぐらいの怪我なんて見なれていたはずなのに。

 

「ううぅ…」
さすがのクラウドがうめいた。
「クラウドぉ、死なないで…」
不思議なほど、涙は出なかった。

 

 

血が止まったのに気付いたのはそれからすぐだった。ガーゼを取り替えようとして、あっと声を上げてしまった。

たしかにあった傷がもうない。
破れた皮膚はもう閉じている。
うっすらとピンクのひっかっき跡だけになっている。

荒かった息も落ちついている。

ピンクの傷跡を指でなぞってみた。
「痛…っ」
魔晄を浴びた碧の目が開いた。

「傷が…」
もうこんなに回復してる
「いたた…」
よろよろと、身を起こして脂汗をぬぐった。美しい金髪がじっとりと濡れている。泥水と、汗と、そして自分の流した血と。

「クラウド!?」
「ムーは…」
「無事だよ、そんなことより、クラウド・・・」
「ああ、驚いたか?」

これがジェノバ細胞の力

驚異的な回復力、超人的なスタミナ、絶望的な破壊力。俺の体の中には、厄災が移植されているんだ、だから滅茶苦茶に強いんだ。

「ユフィ、見たことなかった、か」

つぅぅと、ユフィの健康な頬を涙が伝った。

気味が悪いだろう、自分でもぞっとする。ソルジャーって、そういうことなんだ。

俺は、クラスファーストにはなれなかったけど。ニブル山の魔晄炉で殺されかかって、宝条の手でジェノバ細胞を移植されたんだ。それで今でも生きてるんだけど。

この体がこれからどうなっていくのかもう誰にもわからない。
自分がわからなくなるっていうのは…そういうことなんだ。

げんこつで涙をぬぐうと、ユフィがクラウドの膝にそっと手を置いた。

でもさあ、そのジェノバ細胞が命を救ったんなら
それもひっくるめてクラウドじゃん。
まるごと、クラウドだよ。
でなきゃ、クラウドはニブル山で死んでたんだろ?
アタシ、クラウドに会えて嬉しいんだけどな。

 

嬉しい?

そ、嬉しいよ。

ユフィ、俺が怖くないか?

どうしてさ、

人間離れしてるんだぞ。

けど、クラウドはクラウドだよ

 

心の奥のおく、深くふかく突き刺さっていつも疼いていたちいさな、だけど決して抜けなかった棘がそっと取り除かれたような気がした。

こどものころ、べそをかきながらさしだした指先を、かあさんが心配そうにそして僅かに笑みを浮かべて口に含んでくれた。

そんな感じ、

自分と、自分の中の忌まわしい厄災までも、受け入れられた。

ティファでさえ、不安を口にした。
「不死身ってわけだ、」
ティファは事実を言っただけだ。
怖いだろう、その問いかけに俺は、はっきりと狼狽の表情をみた。

それで、俺たちは終わった。

「だって、海チョコボのこと、約束したじゃん」
マテリアの洞窟に行くんだって、ユフィはわざと大袈裟に両手を広げて見せた。
「一緒に行くんだからね」

今までに感じたことのない暖かさ。

 

その、何て言ったらいいのか…。こんな気持ち初めてなんだ、

もう痛くなくなった?

まだ、……痛い。

ユフィ、あ、あの、

なにさ?

あの時みたいに、

え、いつ?

ゴンドラに乗ったとき…

…ちゅう…

なんとか言ってよね、今度こそ。

……俺も、その、嬉しい。

 

そして膝の上に倒れこんでしまった。高熱を伴いジェノバ細胞が活性化する。
「クラウド!クラウドー」
もはや悲鳴となって、名前を呼ぶ。

バラバラバラバラ…
   嵐を越えて、力強いプロペラの音。
 

     

 

このお話続きあります。Midnight Call5 GO!