聖夜
 

 

村のはずれ、小さい家の灯りが今夜はいつまでも消えないでいた。

「クラウド、きてよ」
奥の部屋から呼ばれて、震える手でドアを開けた。
「いいか…」
特別な香りがする。
「…生まれたよ」

母親の美しさに胸がどきどきした。
凛としていて、そして穏やかで。
「ああ、ユフィ。よくがんばったからな」

聖母子を保護したヨセフのことをふと思った。今、クラウドには、ヨセフの気持ちがわかるような気がした。

「どんな子になるかなぁ」
無意識のうちにユフィに寄り添い、優しく肩を抱いていた。
「きっと母親に似て、強い子になるよ」
新しい命への、精一杯のお祝いの言葉だ。

「クラウド、アタシさあ、すっごくうれしい」
疲労感さえも喜びのうちだと、黒い瞳が潤んで主張している。

クラウドはただ嬉しかった。

「ああ、俺もだ」

これが俺とユフィの初めての……

「大事に育てようね」
少し得意になって、ぶってみた。
「でも過保護にすると、ダメなんだ」

 

「生まれたってー!ユフィ、クラウド、おめでとう。オイラにも見せてよ」
ナナキも新しい命なんて、ついぞご無沙汰している。この、なんとも言えないにおい。鼻先がひくひくする。顔を寄せようとしてクラウドにたてがみを引っ張られた。

「ナナキ、来てくれたんだ。ありがとう、見てよほら」

『星を救う』という大儀のもとに、オイラたちは幾多のモンスターを切り裂き、打ち倒してきた。自分たちの命を守ることが精一杯で、襲いかかってくる他者が誰であれ何であれ、返り血を浴びながら倒してきた。

彼らにも確かに「命」があるはずなのに。

 

 

『うちすてられた死者』

このごろ、ナナキの心に蠢くフレーズだ。

オイラたちは星を救う旅を、他者の命を切り捨ててここまで来たのではないか。またそうしなければ、地面に横たわり、大地に血を吸われているのはモンスターではなく自分たち。そんな強迫観念にさいなまれながら、悩んで悩んで今日も生きていると。

ユフィの腕でまどろむ、この小さきものに希望と救いを求めるのは、わがままだろうか。

 

 

「かわいいなー、どっちに似てるのかな?」
尻尾がパタパタしてしまう。
「母親似だと思う、」
満足そうな笑顔の2人。クラウドの意見にうなずくユフィ。

「じゃあ、走るのが?」

「ああ、すごく早いだろう」

「よかったね、ユフィ、あんなに心配して世話していたんだもん」
母親がユフィの腕の中を心配そうにせっついている。

「さあ、後は母親に任せて、ユフィ、もう寝よう。」
「そうだね、もうこんな時間だし、明日も早いんだっけ」

母親の豊かな胸元の羽毛に子を返して、ふぁ〜〜と欠伸をするユフィ。

「また明日も生まれるんだよね、」
ナナキが様子を伺うと、母親に睨まれた。

「そうだ、あと2羽、卵を抱いているのがいるんだ」
「忙しくなるね、元気に育ったらこの星のあちこちを走り回ってさ」
「ああ、魔晄エネルギーなしでも遠くまで行けるようになる」
「じっちゃんが聞いたら喜ぶよ、きっと褒めてくれる」

 

 

 

 

「あ、あなた、…ええ、無事です。生まれましたよ」
【そうか、よかったよかった。途中で投げ出すなよなんて、余計な心配だったか】
「何かお祝いしてあげたいわ」
【おお、ボーンビレッジを回って帰るから、カラブの実をしこたま持って帰るって、言っといてくれ】
「わかりました、じゃあ、気をつけてくださいね」
【おう、あいつらに何か美味いものでも食わしてやれよ】
「そうね、そうします」

 

 

 

この話をどこでどう聞き違えたのか、コレル村から1通の封書が届いた。
           
              表書きは  『出産祝い』


「う〜〜ん、どう思う?クラウド」
「一体、誰とだれの子供が生まれたお祝いのつもりだろう?」
「冗談、かな?」
「バレットだぞ」
「…だよね」

首をかしげる2人、シエラがくすくす笑った。今日の夕食会は変則4人前。気が向くと現れるヴィンセントは、静かにダイニングのすみで様子を見守っている。

「礼状を出すのが当然だろう」
ポツリと言い放った。

「そうよぉ、あなたたちもお父さんお母さんなんだから、オトナのお付き合いはきちんとしなくちゃ、ね」
シエラもつられて言ったので、紅い目の奥が少しだけ笑ったようだ。
「うむ、」
顔を見合すユフィとクラウド、

ぶーーーっと、先に吹き出したのはもちろんユフィ。
「だーーーっ、そうだね。アタシ、お母さんか!あはは、こりゃいいや」

足をばたばたさせて笑い出した。

とてもお母さんには似つかわしくない様子に、ヴィンセントが眉間にしわを1本寄せた。
「でさあ、クラウド、おとうちゃんだよーー」

涙が出るまで笑わなくてもよさそうなものだ。

先に笑い倒されてしまい、真面目な顔をするしかない【おとうちゃん】クラウドはヴィンセントに尋ねた。

「なあ、ヴィンセント、礼状ってどんな風に書くんだ?」
「私も書いたことはない」
「なんだよ、それ!」

「【母子ともに健康で走るのがとても速いです】って写真を添えておけばどうかしら?」
シエラもこんなにおもしろいことは久しぶりだったので、ユフィと一緒に大笑いした。

 

 

 

基本的にクラウドは真面目だ。
翌日、早速シエラに言われたとおりの「お礼状」を出していた。

受取ったヤツの顔を見てみたいものだ。ティファも笑ってくれるかな、…いいや、そんなこと。

まだまだ引きずっているクラウドを「子育て」が追いたてる。

「ひゃ〜〜、クラウドーー、手伝ってよーーー」
いいのかもしれない、忙しさに取り紛れるのも。
「何してんだよー、ほら、母親、しっかりしろー」

それはそれで、幸せかもしれない。