旅の途中

Bi-ne-tsu

 

暴走機関車はすんでのところで停止した。
見事、ヒュージマテリアを回収して意気揚々のシドは、ぷか〜〜〜っと一服を忘れなかった。

やれやれ…

一時はどうなることやと珍しく汗をかいたヴィンセントは、身を起こしてそっとマントの中を覗いた。
「しっかりしろ、終わったぞ」
マントの下から青い顔をしたユフィが、命からがら空気を求めて這い出した。
自慢じゃないがユフィは乗り物酔いだった。

ハイウィンドから降りたい一心でコレル山行きを志願したユフィだったが、まさか機関車に乗せられるとは思わず、
「乗り物に乗らなくていいと思ったからついてきたのに!!うっぷ」
などと、五月蝿いことこのうえない。だがじきに気分が悪くなったらしく、口をきかなくなってしまった。

「きもちわるい・・・」
それだけ言うと、酸欠の金魚のようにパクパクと口を開いて閉じて、焦点の合わない眼で青空を見上げた。傍らにはこれもまた珍しく、困った顔のヴィンセントが甲斐甲斐しく介抱していた。

タバコを(-。-)y-゚゚゚したシドは、にやりと右の頬だけで笑った。
あーー恥かしい、その場にいるだけで恥かしーーー。やってられねぇぜ、ムシだ、無視!

乱暴な運転をするなと、普段は静かなヴィンセントがシドに声を荒げて抗議していた。小脇に抱えたユフィを励ましながら・・・。
大丈夫だ、私が守ってやるから、などと保護者の域を脱しない発言には笑えた。ウォーリアーバングルを取り上げなくてはならないのに、気が散るったらありゃあしない。当のユフィはといえば、乗り物酔いで話しの一つも聞いてはいなかった。冷静に見れば哀れの一言だが、この忙しい時にと、シドはむしろ感心してしまった。

バカらしいから知らんぷりが一番と、シドはすばやく逃げ出したのだ。

 

「もうだめ・・・歩けない・・・」
文字通り、伸びてしまったユフィは口を聞くのも大儀だった。
「仕方ない、さあ」
抱き起こして握り締めていた【折り鶴】を預かった。そしてヴィンセントは、膝を折って背中を向けた。

「ヴィン、ごめん・・・」

まだ莟の胸のふくらみを背中に感じる。

「構わない。誰にでも不得手なことはあるものだ」
「・・・うん。」

首に回された細い腕がたよりない。まだ呼吸が荒い。

「・・・大丈夫か?」
「うん・・・なんか・・・」
「?どうした、」
「親父以外の・・・ひとに・・・おんぶしてもらったの、初めてだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ヴィンセントの背中は広くて大きくてあったかで、気持ち良かった。

「ヴィン、」
「どうした」
肩越しに見たヴィンの横顔は、いつもと変わらない。
「らくちんで、いい気分だよ」
「そうか」

つややかな黒髪がヴィンセントの頬を撫ぜた。

「ありがと、もう・・・」
おりるよ、みんなに笑われっから。
言おうとした台詞を遮って、ヴィンは前を向いたまま
「私はかまわない。」
足を止めずにさらりと言った。

バレットとナナキの前も、何事もないかのように通過した。

「ねぇ、バレット。今のって・・・」
「へっ、お前さんもおんぶしてやろうか?」
「じゃなくって。ヴィンさぁ、すんごくいい顔してたよ」
「そうだな、怪しいぞ。ヴィンの野郎、マテリアすり取られなきゃいいが。」
「う〜ん、バレット。もうちょっとまっすぐに現実を見るべきだよ」
「バカヤロウ、ガキが生意気な口きくんじゃねぇよ。実害が及ばないうちは知らんぷりてぇのが仁義ってもんだ。」
「知らないよ、マリンちゃんとかも・・・」
「むかっ、言っていいことと悪いことがあるぜ。蜂の巣になりたいか!」
「ごめんよ〜〜」

ちょっとかっこ悪いな、ユフィはヴィンセントに声をかけた。
「ねえ、ヴィン。」
赤い瞳をこんなに近くで見たことはない、マテリアの赤と同じ深みがあることに気がついた。なによりシドやバレットと違って、ヴィンは怖くない。

ユフィはあの2人からはよく叱られるのだ。

――確かに、オジさんたちから見ればアタシはコドモだろうけどさぁ、
あんたらの娘じゃないのに、ガミガミうるさいんだよ。そこにいくとヴィンは物言いもやさしいし、何よりいつも静かで、アタシの質問にだって丁寧に答えてくれる。――

このごろよくヴィンセントと話をするようになったのはそういうわけだ。

「回復したなどというと、リーダーさんがすぐに出発すると言い出すぞ。」
想像しただけで、ユフィはまた気分が悪くなった。
リーダーを任されたシドは空を飛ぶのが嬉しくてたまらないのだろう、小休止をしようという気がどうやらないらしい。
「時には休憩も必要だ、飛空艇をおりて休むべきだ。」
「わ、わかったよ」
「遠慮はいらぬ、暫く大人しくしているのがいい」
「そうするよ、」
広い背中に身を預けた。耳を当てるとヴィンの鼓動が伝わった。

「ヴィン、」
「なんだ?」
「・・・あったかで、きもちいいよ」
「そうか、」

「ヴィン♪」
「まだ、何か?」
「ううん。呼んでみただけだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
【折り鶴】がゆらゆら、笑ったようだった。

 

北コレルにも宿屋はあった。つましやかなゲストルームだが、久しぶりの「揺れないベッド」にユフィは満足だった。夜のうちにコスモキャニオンまで行こうとしたシドにヴィンセントは反対した。
曰く、
「ユフィは発熱している、検温の結果、37.2度だった。」
シドは呆れて、もう何も言わなかった。
『ケッ!発熱してんのは、テメェだろうが』

夜更け過ぎ、ハイウィンドが発進した。急ぎ、コスモキャニオンに回収したヒュージマテリアを届けたかったからだ。ユフィとヴィンセントは、翌朝ひらうことにした。

「なぁおい、リーダーさんよ、こんな勝手、許してていいのかよ?」
「しょうがねぇだろう、他ならぬヴィンセントの意見だ。たまには年長者の言い分も聞くもんだ」
「けどよ、それならオレだって心配だぜ、」

口をとんがらせたバレットが、右腕のギミックを見た。

「安心しろ。明日はミディールにも行ってみる」

舵を取るのは本当に気分がいいものだ、夜間飛行は一番すきだ。
見ろ、あの漆黒の空に瞬く星をよ。…下品な赤いメテオとぶつぶつうるさい弾丸オヤジが邪魔だな。なんでおめぇがいないか、だ。

「お、オレは別にク、クラウドのことなんか心配してねぇぜ」
「ふん、クラウドのことはねぇ」

リーダーは辛いもんだ。どいつもこいつも好き勝手言いやがって。
これで三角関係だとか言い出したら、オレ様は本当に怒るぞ!