送別会

 


「ヴィン!、あのさぁ、配合表…アリガト。」
「役に立てばいいが」
「きっと役に立つよ。それにしても、ヴィンもシドも、なんかさぁ、物知りっていうか、変なことよく知ってるなぁって、クラウドと言ってたんだ。」
「ふふ、伊達に長生きはしていない。」

君の口からその名前が出るたびに、拳に力が入るのはなぜだ?

「あはは、助かっちゃうよ。シドはさぁ、調教マニュアルくれたんだよ、ほら」

ガントレットにもたれかかるユフィに他意はない。

「どれ、」

汚い字だ。
あの人はこんなガサツな男のどこが気に入ったのだろう、デリカシーのかけらもないのに。

内容に興味などなかった。しかし私がこのメモを手にしている間は、君の顔を見ていられる。

「けどさぁ、字が汚くて、読めないところもあったりするんだ。クラウドも悩んじゃって。」

胸が痛い。
君があいつを連れていくのはなぜだ?
「誰でもよかったんだけどね」今しがたもそう言っていた。ではどうして私ではいけなかったのだ。
…私は何を言っているのだ?

「でも、がんばるよ。このユフィさまの遠大な計画は必ずや!」
ばっと両手を広げて芝居がかったユフィの仕草に、リアクションのしようがなかった。
「うむ、私でわかることならば、手を貸そう。」
月並みな台詞だが、私にはこれが精一杯だ。

「ヴィン、・・・ありがと。山チョコボが生まれたら一番にヴィンにプレゼントするよ。」
「?」

「そうしたら、いつでも…祠に…」
「!」

「シエラさんが心配してたよ、だからアタシ、決めたんだ。」
「ユフィ、それは!」
「ん〜〜〜大丈夫だよ。誰にも言ってないから。2人のヒミツさ」
「・・・・・・」
「ねっ、だからさ、居所だけはっきりしといてね。あ、それとダメだよ、棺桶の中は。電波が届かないんだから。」

輝く笑顔から目が離せなくなった。
君と同じ時間を生きていることがこんなに嬉しく、そして哀しく思うとは。忌まわしき肉体を与えられたことによってのみ、君と出会えたとは…。君の存在が次第に楽しくなっていった。もう二度と人を想うことなど、出来ないと信じていたのに。

君を眺めていると、本当に心が和んだ。
思わず笑ったことがあったのも、君が居たからだ。

紅い瞳から一粒の涙がこぼれた。
たった、一粒。

「?どうしたんだ?目、痛いのか」
「いや、」
「見せてみろよ、真っ赤っかだよ。」
「何でもない、」
「だめだよう、ほらぁ。すわって」
「私の瞳は紅いのだ!」

人の都合なぞお構いなしで、顔を近づける君…。

愛らしいその唇にあの人を思い出したのだ。
似ている、そう思った。
けれどじきに、心の中のあの人ではなく、いま目の前にいる君を見ていた。
いつの間に?
君に惹かれていく自分に驚いた。
どうして?
私はまた彼女に対して罪を重ねている。

ティッシュで涙をそっとふき取られて、ヴィンセントは肩の力を抜いた。

「何だよ、なんともないじゃん。」
「だから何でもないと言ったではないか」

口を尖らせて喋る自分が心地よかった。
君と話すといつもそうだ。
それが嬉しかった。
ありがとう、ユフィ。

立ちあがってマントに身を包むと、ヴィンセントは歩き出した。
けれどすぐに振りかえり、懐から封筒を取り出した。
「これを、」
「え、今度は何?」
「追加事項だ。参考になるといいが」
「あ、ありがと・・・」
「ユフィ、」
「?」
「健やかに、…幸せに、」
「??」
ヴィンセントはもう振りかえらなかった。

 

 

まだまだ賑やかな上海亭、今夜はユフィとクラウドの送別会。
ゴンガガの先に、世界で二つ目となるチョコボファームが完成して明日は出発する。

「おう、あのネクラ野郎は帰ったか?」

絶好調で呑んでいるシドが、くわえ煙草で声をかけた。

「うん。それよりオジさん、うへぇ!酔ってるねぇ」

ケダモノを見る目でシドをからかった。隣ではクラウドがシエラに呑まされていた。

「へぇ〜、クラウドってお酒呑めるんだ!」
「シエラに呑まされてるんじゃ、大したこたぁねえな、あん?」

襟首を引っ張られたクラウドは、血走った目でシドを睨みつけた。

「なんだよ!オトコとなんか呑んだって嬉しくないっていっただろ!」
ぎゃ・・・
「わりぃわりぃ、おめぇは年上が好みだったな」
ひっ・・・
「あらぁ、聞こえましたよ。もう一度仰ってくださる?」

し、シエラしゃん、そのお酒、普通は水とか氷とか入れるんじゃ?

「おーーーなんて美人なんだーーー。酔っ払ったおめぇはサイコーだーーー」
うそぉ!???
「まぁうれしぃ。ごめんなさい、酔ってるから聞き違えたのね!」
乾杯!
2人はゲラゲラ笑った。でも目は笑っていない・・・

大人って、コワイ・・・

 

 

マスターがユフィに手招きをした。
「うわ、助かったよ。マスターありがと」

上海亭は不思議なところだ。酒場なのになんでパフェが出てくるかな?

「何もありませんが、さぁどうぞ」

この、バナナがにゅわぁっと生えているの、不思議だよね。スプーンでもフォークでもどうすりゃいいのかわかんないのが凄い。面倒だからぱく、って顔を持っていった。

「みなさん、上機嫌ですね。」
鼻先にくっついたクリームに気づかないユフィが可愛い。
「ね、マスター。シエラさんてさぁ、」
ひそひそ尋ねてみた。

「あの2人はライバル、いろんな意味でね。」
「ふうん、よくわかんないや」
「私にもわかりませんよ。」
マスターがすっごく優しい目をした。どっかで見たような・・・

ヴィンの顔が浮かんだ。何でかな、まぁいいや。
そうそう、「追加事項」って何だろ?
封筒を開くと几帳面な文字が並んでいた。

「……やだな、ヴィンってば。」

心の痛みまでも和らげるであろう君の笑顔が暫く見られないのは残念だが自分の選んだ道ならば、 自信を持って進みなさい。
物事をまっすぐに見つめること。
君のまなざしは必ずクラウドの頑なな心を解きほぐすだろう。
彼は良いジョッキーに成長すると思う。
どんな困難にもぶつかっていく勇気は、君のとても素晴らしい武器だ。 あらゆる問題も、君の勇気の前にはほんの小さな盛り土でしかない。 君の明るさと元気さ、そして前向きな行動力があれば、 目標達成はそれほど難しいことではなかろうと推察する。
くれぐれも体に気をつけて、
君の願いが叶うことをいつも祈る者より。

ユフィ・キサラギ殿                                   
                                    Vin.


いつの間にか、カウンターに戻ってきたシエラがユフィの顔を見ていた。手元に落とす視線が固まっている。

「マスター、すいません。大騒ぎになっちゃったわね。」
「大丈夫かい、そんなに呑んだのは久しぶりじゃないか」
「大失敗だわ、明日は早いのにどうしよう!」
「笑いながら言うんじゃないよ。」
あはははは・・・

顔を上げたユフィは、マスターのまなざしがとても優しくて、そのくせ涙が出そうなほど寂しそうなのを見た。シエラと一緒に笑っているのに、どうしてなのかわからなかった。

ふいにシエラに声をかけられた。

「ユフィさん、お鼻が白いわよ」

ほんとだ。
人差し指にくっつくクリームをぺろりとなめた。笑ったのは自分の鼻先が白いのが可笑しかったからではなくて、マスターが寂しそうだったからだ。

「それは?」
「え、ああ、これ?」

見せる必要はなかったのかもしれないが、別に隠し立てするまでもないし、隠すとなんだかヴィンに悪いような気がして、ユフィは、

「追加事項だってさ」

はい、と、シエラに手渡した。
さらりと目を通していると、
「おっ、もう退散か?」
しっかり出来あがったシドが来た。

クラウドはもう座っていられなくなったらしく、ソファーに放置されていた。
「艇長、もうお開きですね」
言いながら手紙をユフィに返した。

「けっ、だからおめぇと呑むのはヤなんだよ。おめぇがいなけりゃ朝まで呑むのに。仕方ねぇ、帰るとするか」

マスターはシドにお冷を出した。

 

 

 

 

「あの野郎も馬鹿だなぁ、よせばいいのに」
「個人の自由ですけど、何だか・・・」
「無理があるとか、そんなマジメなこと、オレ様だって思っちゃいないが」
「こっちが哀しくなります」
「ま、あいつぁ、解決しなきゃなんねぇことから逃げてやがる。 そろそろケジメつけてこいってこった」
「・・・」

目を閉じても、ルクレツィアという人の顔が思い浮かぶわけでもなく、感じるのはただ、シドの体温だけだった。

いつものようにシドの左腕を抱いて、あっという間に眠ってしまったシエラにシドは舌打ちをした。