Birthday Cake

Closed

本日臨時休業・・・それはわかってる。
あれっ?
店のドアがしまっている。
灯りもついていない?

子供たちになにかあったのか?

バレットの足が速まった。

鍵がかかっている、
どんどん
「ティファ!マリン!ハリー!テリー!」

ばたばた・・・
「おとうちゃん、おかえりーーー」
「おかえりーーー」

店は薄暗い。事件でも起こったかのような雰囲気だった。
「なんだ?何かあったのか?おかあちゃんは?」
双子の男の子、テリーとハリーがバレットにまとわりついた。
「おねえちゃんがね、」
「がね、」

スイッチが入って店は明るくなった。
「おかえり、」
ティファも降りて来た。

『今日は早く帰ってきてね』
マリンに頼まれてうきうきして帰ってきたのに、
「マリンがどうしたんだ?」
不安顔のバレットの胸に手を当てて少し背伸びをして、ティファがキスをした。

「あぁーーー、おかあちゃんーーー」
「ちゅ〜〜〜、ボクもーーー」
「ぼくもーーー」

すかさずバレットが2人に髭づらを押し付けた。

「やーーー、おかーちゃん〜〜〜〜」
「ちゅ〜〜してーーー」
にこにこ笑うティファの足にそれぞれがまとわりついた。収拾がつかないのでバレットの腕を名残惜しそうにほどくと子供たちの頬に
「んちゅ」
と、してやる。

「おねえちゃんを呼んできてくれる?」
「うん、」
「おーけー」
2人は先を争って階段を目指した。

 

「マリンがどうしたんだ?」
ようやく話を元に戻せる。
ごちそうの並んだテーブルを見ながら、バレットが不安顔で尋ねた。
「ちょっとね、・・・」
朝は随分張り切っていたのに。行ってらっしゃいのちゅ〜もしてもらって、足取りは軽かったのに。

こと・・・

胸がきゅーっと締め付けられるような足音だった。
思わず階段の途中まで駆けあがるとマリンを抱き上げた。
「いいよ、とうちゃん・・・」
目が真っ赤なのは先ほどまで泣いていた証拠だ。もうすぐ9歳のマリンは、このごろそんなつれない台詞を口にするようになった。

それにはっとすることがある。

当たり前なのだが、似ているのである。エレノアに。

神羅に襲撃されて、燃えさかるコレル村から救い出した唯一のいのち、それがマリンだ。
エレノアから預かったいのち、コレルプリズンでダインから託されたいのち、2人の無念を預かったバレットは、この子のために死なずにいたと言っても過言ではなかった。

そのマリンに「いいよ・・・」などと言われると、自分を否定されたようで、
風に飛ばされる砂にでもなったような寂しさに襲われる。

「けどよう、マリン。目が真っ赤じゃねぇか?」
ティファに編んでもらった三つ編みがよく似合う。エレノアも栗色の長い髪を左側に束ねて、三つ編みにしていた。

また涙が浮かんできて、バレットは慌てた。

女に大泣きされたのは、ティファに二度だけだ。

バトルのときにティファをかばって気絶して心配かけたのと、それから恋にピリオドを打った後の、お別れに泣いたのと。オレの一張羅がぐしょぐしょになったっけ。

どっかのタバコ吸いと違って、オレは女をののしったり放り出したりしないんだ。

・・・後にも先にもそれだけのはずだ。

マリンはわけもなく泣いて自分を困らせたりしない子だったから。

「あのね、バレット・・・」
ティファはマリンを受取ろうと、両手を差し出した。
とん、と、バレットの腕から飛び降りて、ティファの胸に顔を埋めた。
「もう泣かないのよ、」
「だけど・・・」

ばたばた・・・
「あーー、おとうちゃん、おねぇちゃん泣かしたーーー」
「おねーちゃん、かわいそーー」

まだ3つにもならないのに、こいつらときたら、なんで2人揃うとこんなにやかましいんだ?

「違うわよ、ほら、おとうちゃんに謝って。それから手を洗ってきて。」
「へぇー、ごめーーん」
「ごめんねーー」

それにティファの言うことならよく聞くのが腹立たしいことがある、一体どうなってんだ?

「さぁ、マリンも。大丈夫だから。とうさんが心配してるわよ、…私から話そうか?」
マリンを連れて洗面所にいくティファが振りかえって、
『ダイジョウブダカラ』と、目配せをした。マリンはうつむいて首を横に振るだけだった。

 

 

「おとうちゃん、おめでとう」
「おめでとう」
「バレット、おめでとう」
・・・・・・おめでとう
12月15日、バレットの誕生日だ。

星を救う戦いの後、故郷のコレル村に戻ったバレットは、ティファを妻に迎えた。村中の男どもの羨望と、嘆きと、怒りと、不満のごうごうたる、実に盛り上がった結婚式だった。
炭坑の復興に力を尽くしてやがて3年、世界じゅうに石炭が行き渡るようになったのは、シドがせっせと運ぶからだ。
商談はリーブがよろしく取りまとめている。
エネルギーの奪い合いがつまりは紛争のもとだから、バレットはいつもリーブを脅している。
「売り惜しみ、不当な値上げ、そんなこと一回でもしてみろ、わかってるだろうな!」

ティファとの間には双子の男の子に恵まれた。自分にそっくりの子が一度に2人、バレットはとても不思議だった。マリンはとてもいいお姉さんになった。

平和になったものだ、夢だったらどうしよう。不安になるくらいの幸せな日々をかみしめていた。

なのに、マリンの涙をどうしてやればいいのだろう、テーブルの向こうでしゅんとしているマリンは、まだ目が赤かった。

「とうちゃん、ゴメンね。ケーキ壊しちゃったの」

拍子抜けしてしまった。

「なんだ、そんなことで泣いていたのか?」
「でもとうちゃん、かわいそう・・・」

見ると、手作りのケーキにマリンのと思われる手形がひとつ、ぽこっとついている。

「いいじゃねぇか、そこだけ切りとるかクリーム乗せときゃ・・・」

「でも、でも!」
泣き出してしまった。

「実はね、」

ティファまで目を潤ませていた。

 

 

「そうだったのか、忘れてなかったんだな。」

マリンは、あの事件を思い出したのだ。七番街プレートが落下した、あの事件を。

かわいそうに、こんな小さな子どもの心にも決して消せない深い傷をつけていたんだ。マリンの安らかな笑顔を曇らせるなんて、このオレが許さねぇ。

それでもバレットは嬉しかった。

アバランチのメンバーはきっと喜んでくれている、確信を持ってそう思えた。

「とうちゃんな、マリンのその優しい気持ちが一番嬉しいぞ。今日はすごいプレゼントをもらっちまった。ありがとうよ、マリン。さ、食うぞ!」

テーブルいっぱいのごちそうをわしわし食べてみせた。息子たちが負けじと続く。この子達には父親の瞳がキラリと潤んだことなど、気づくわけが無かった。顔中をケーキにして大騒ぎしていたから・・・。

 

優しい娘に育ってくれた。
あんな殺伐とした生活につき合わせてしまったのに。素直ないい子になってくれた。ダインやエレノアに顔向けもできるというものだ。

今夜はとうちゃんと一緒に、なんて、幾つまで言ってくれるだろうか。

いまにこのペンダントを渡さなくてはならない日がくるだろう。

傍らに眠る愛娘の顔をしみじみ見つめるバレットは、言うともなしに呟いた。
「何て言って渡せばいいんだろうな?」
テリーとハリーを寝かしつけてきたティファは、夫の肩にそっと手を置いた。
「・・・きっとバレット、泣いちゃうよ」

バレットの考えていることがわかってしまった。
夫婦なんだ、
新鮮な驚きと、そして嬉しさで胸が一杯になった。
「ティファ、ありがとうな、ティファのおかげで・・・」
マリンはこんないい子に育った、バレットの目が語りかけた。

ううん、首を横に振りながら唇を重ねた。
「マリンはバレット・ウォーレスの娘よ」

寂しそうな、ちょっと誇らしげなバレットの顔に、ティファはそれ以上の言葉を見つけることができなかった。