Midnight Call

vol.1

 

夜遅くベルが鳴るのはやはり良くない知らせのようだ

「どうしたの!!?落ちついて、ユフィさん」
「なんでぃ、どうした」
「クラウドさんはどうしたの?代われる?」
『クラウドが…クラウドが』
「わかった、何とかするから、泣かないのよ」

ことの次第を話すと、シドの顔色が変わった。

チョコボの育成が軌道にのったユフィとクラウドは世界で2つめになるチョコボファームを開いていた。世界じゅうにチョコボを広めて、陸の交通手段として使えるようにしたいというユフィに引きずられるように、クラウドも手を貸していた。

2人のチョコボファーム周辺は嵐の季節だ。

「あの辺りは風がややこしいって、よく父も言ってた」
「助けに行ってやらねぇと、まずいな」
「はい、今すぐ行ってあげたいんですが」
「そりゃそうだが、オレは動けないし…」

明日の朝一番に、チャーターの予約が入っているのだ

「ねぇ、……だめかしら」
シドはぎくりとした
シエラのすまなそうなその目、それは…

「お、おめぇまさか!」
「輸送船が、あいてるから…」

あのときの目だ。オレ様から操縦桿を取り上げたときのあの目。

いかん、こいつ、もうその気になってる。

「で、誰が操縦するってんだ?」
「だから…」

わ、こりゃまずい

「嵐だぞ、オレは出られねぇんだぞ」
「でも早くしないとユフィさんたち」

だめだ、本気だ、こいつ、出る気だ

「お願い…」

唇の下で手を合わせられるとシドは頭がいた〜くなってきた

これがでると、もうダメは通用しない

「…輸送船だそ、忘れるな」
ぱっと笑顔になって、シエラがベッドから飛び出した。うすいナイトドレスの裾が翻る、健康な肢体が踊った
「すぐに準備をするわ!あなた、ありがとう!」

あわててシドも後を追った。自分が管制塔に上がらないわけにはいくまい。シエラにフライトを許可した以上、責任がある。

隣の部屋からあっという間に仕度をしたシエラが出てきた。フライトスーツ姿、もう見ることもないと思っていただけに、こんなときにお目にかかるとつい昔を思い出してしまう。

 

 

 

にわかに滑走路が慌しくなった
緊急呼び出しで数名のスタッフが集まった

輸送船がエプロンに出てきた。

管制塔には不安げな顔のシド。
「ちょいと借りるぜ、おう、聞こえるか」
管制官が誰と話しているのかと、いぶかしげな顔でシドを見た。

『こちらゲルニカ、スタンバイOKです』
「上海亭のオヤジが、ジョディが同行してくれっから、無茶すんじゃねぇぞ」
『感謝します、離陸の許可お願いします』
「こら、慌てるなィ、話はまだ終わっちゃいねぇ」
『こちらはオールクリアよ』
「おまえ、気持ちが先走ってるぞ、久しぶりの空なんだ、わかってるだろうな」
『でも早くしないと、』
「……わかった、無理するんじゃないぞ。やばいと思ったらすぐ逃げろ、いいな」
『ええ、昔みたいに無茶はしないから、安心して』
「おう、シエラ、気ぃつけて行くんだぞ!」
『はい!あなたこそ。行ってきます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

vol.2


ユフィとクラウドを救援するためにゲルニカで出発したシエラ。闇夜に紛れて、機影はあっという間に視界から消えてなくなった

レーダーだけが頼りだった

「艇長、ゲルニカがレーダーから消えます。管制塔も当直体制に入りますが」

「おいちょっと早くねぇか、アイツめ、飛ばしてやがんな」

管制官はこんな落ちつきのないシドを見たことがなかった。

「ゲルニカと交信できるか?」
「は、かまいませんが…」
「呼び出せるか?」
「やってみましょう、…ロケットポートよりゲルニカへ、応答お願いします」

『…………』

「おい、出ねぇじゃねえか!」
「そんなすぐに……ホラ出ましたよ」
『……ちらゲルニカ、』
「ちょっと代われ。 オレだ、おい、シエラ、スピードの出しすぎじゃねぇか!」

『シド?あなたなの!』

「輸送船がそんなスピードで飛んでいいと思ってんのか!」

『ちゃんと巡航速度を保っていますよ。それより、あなた明日早いんですよ、管制塔はもう任せて、早く休まないと』

「何いってんだ、オマエのようなやつが操縦してんだ、おちおち寝てもいられねぇや」

『あなたこそ、明日居眠りして落っこちでもしたら…』

「シエラさん、とにかく艇長が心配してますから回線をオープンにしておきます。こまめに報告をいれてくださいよ」
『……そうね、わかったわ。あなた、それでいいかしら』
「よし、いいだろう。落ちついて乗るんだぞ」
『あなたこそ、早く休んでくださいね』
「こっちの心配はいいんだ!前向いて飛べよ!!」
『………』

 

 

「おやおや、シドはどうしたんだい?あんなに心配性だったかい」
「シエラに負けたときのこと、忘れられないんだろう」
「そうだなぁ、あのときはすごかったもんなー」

「みんなもう忘れてよ。あれは私の負けだったって何度言ったらわかるのよ。もう、シドったら、どうしてこんな昔のメンバーばかり呼び出したのかしら」
「そりゃぁ、女房が嵐に挑むんだ、気心の知れたクルーで出すのが当然だよ」
「まぁそうだけど……」

信用されていないな、ちょっとシエラは寂しく思った。

「シケてきたわね、」
「ユフィちゃんのチョコボファームはゴンガガの先だったな」
「こんなに早く、約束を果たすことになるとはねぇ…」
「何ですか、約束って?」    

 

 

 

 

 

 

vol.3

 

乗り物に乗るのがイヤで、あの戦いの後、ユフィは随分長く村にいた。
それでおじさんメカニックにも結構ウケがよく、可愛がられていたのだ。

チョコボと出会ったのもそんなとき。ゴールドソーサーで活躍していた
数羽のチョコボの世話を頼まれてからだ。

向いていたのだろう

チョコボたちはすぐにユフィになついた。毎日せっせと世話をするユフィに
おじさんたちもよく声をかけていた。村の人気者といったところだった。

だから彼女がクラウドと二人で村を出たとき、おじさんたちは結構さびしがったのだ。

「困ったことがあったらいつでもオレたちを思い出すんだよ」
「すぐに飛んでいってあげるからな」


「…って、約束したんだよ」
「ちっとも知らなかったわ」
人の縁とは不思議なものです、シエラは小さく溜息をついた。

 

 

「気流の乱れやすいところです。父も遭難しかかったと聞きました」
「それにこの嵐だ、締めてかからないと大変だ」
「ごめんねみんな、こんな危険なフライトにつきあわせてしまって」
「いまさら何を言うんだい、シエラ。こんなのハイウィンドのテストのときに比べりゃどってことないさ」
「そうそう、アレに比べりゃ、このゲルニカは完成品だ」
「違いねぇ!!」
ブリッジは大笑いになった

 

「わぁーっすごい揺れ、」
「最悪ってやつだな、予想通りでさ」
「シエラ、見えたよ」

「ゲルニカよりロケットポート、応答ねがいます」

『…………ら、ロケットポート、』

「チョコボファームに到着しました、これから着陸します、どうぞ」

『了解、くれぐれも気をつけてとのシドからの伝言です』

 

体に悪い、こんなことならチャーターの予約なんかキャンセルして
自分が行けば良かった。

  いらいらいらいらいら……

部屋に戻っても、とても寝られそうにない。

ジョディにも一緒に行ってもらったが…ヤツはシエラの上司で、ロケット打ち上げ失敗からあとパブのマスターになってしまったのだ。シドより二つ年上で、心を許せる古い仲間の一人だ。

「大丈夫だよ、シド、シエラを信じろ」
「すまねぇ、あいつめ、言い出したらきかねぇから。おめぇがついていてくれりゃ、ひとまず安心できる…」
「わかったよ、あの時みたいに飛ばさないように見張っててやるから」

肩をポンと叩くと、ジョディはゲルニカに乗り組んだ。

「くそっ、まだあんときのことを……トットと忘れろぃ」

 

 

 

 

 

 

 

vol.4

夜半にフライトがあるのは珍しい。ヴィンセントは窓から空港の様子を眺めていた。管制塔にシドの姿を見て、彼は部屋を出ていった。こんな夜中に船を出すなら、パイロットはシドのはずだ

どうしてシドが

一体誰を送り出したのだろう

こつ、こつ、こつ……

足音が響く
誰もいないエアポート
管制塔に上がると、薄暗い部屋の中に赤い光が見えた

「…………」

気配を察したシドが振り返った

「お、ここはスタッフオンリーだぜ」

「お前が管制塔に残るとは、珍しいのではないか」

いらいらいらいら……

所在無くうろうろ歩くシド

「落ち着かないようだが……」
「これが落ち着いていられるかってんだ」
「パイロットは誰だ」
「シエラだよ」

「……………………」

「驚いて口もきけねぇだろう」
「あの人が、飛ぶのか」
「言い出したら聞かねぇんだ、ウデは確かだから出すしかなかったんだ」

きさつを簡単に話すとシドはまたいらいらいら……室内をうろうろし始めた。

「心配だな」

「心配どころじゃねぇぜ、これを最後にしてもらわねぇと、たまったもんじゃねぇ」
「ふふふ、」
「おめぇは他人だから笑ってられるんだ!」

そのとき、管制官がマイクを取った。

『……ニカより、ロケットポートへ』

「こちらロケットポート、ゲルニカですか!!」

シドは慌てて管制官の元に走った。けつまずいて転びそうになった。

『こちらゲルニカ、只今より帰還します、受け入れの準備願います』

管制官からマイクを強奪してシドが叫んだ

「おい、シエラ!!」

『シド!?まだいたの!もうすぐ夜明けよ』

「バカやろう!!何時間も連絡をよこさずに、どういうつもりでぃ!!」

『ちょっと、落ちついてよ、』
『シドかい、』

ジョディだ

『大丈夫だよ、フライトは上々だ。シエラの操縦はピカピカだぜ、ちっともウデが落ちてない。 うかうかしてちゃ、また負けるぞ』

明るい声で淡々と話すジョディ。彼にとっては今でもシエラは妹なんだろう。

『今から帰るから、やっぱり三時間ぐらいかかるよ、輸送船だし、スピードを押さえてるし。シド、気持ちはわかったから今からでも少し寝ろよ。 シエラが心配するぜ』

「おい、シエラ!時間がかかってもゆっくり飛ぶんだぞ、わかったな」

『…わかったわ、そうしますから』

「シエラさん、受け入れ準備をします、必要事項を送信してください」

『了解、確認してください』

 

 

 

 

またタバコくわえて、シドは遠くの空を見た。

「着陸するまで、安心もできねぇ……」

そんな独り言に、ヴィンセントはくすっと笑ってしまった。笑うことなど、もうないと思っていたのに。

「……いつも、彼女がそう言っている…」

びくっと、肩が震えた

しばらくの沈黙の後、ヴィンセントが口を開いた。
「格納庫まで迎えに行くのさえ、怖いときがあるとも…」

知らなかった。思いもしなかった。

そうだな、オレ様は空を飛んでばかりだから。陸で帰りを待つなんてことは今日の今日までなかったんだ。

「よしっ、決めた!寝るぞ」
ばたばたと走り去るシド。自分が今するべきことは心配などではない
少しでも睡眠を取ることだ。そうでなければ、アイツめがどんな思いをするのか今わかった気がした。急がなくてもいいから、
シエラ、
このオレ様のところに戻って来い!

 

 

 

 

 

 

 

vol.5

ちー

毛布から手を伸ばして音の出所をつかまえた。エアガイツのおまけだと、ユフィのやつが持ってきたんだ。寝返りを打つが隣がやけに広いので、ばっと飛び起きた。

シドは時計を見た。

Tシャツを脱ぎ捨てて急いで着替えるとエアポートへ走った。中途半端に眠ったせいか、体が重い。待たされるなんてごめんだ、待たせるほうがよっぽどましだ。
必ず戻ってきて、ただいまを言えばいいのだから。くそっ、静かすぎる、まだ戻らないか?

シドがエアポートまで来るのをまるで待っていたかのように、輸送船が見えてきた。無事にランディングしたのを見届けると、体が軽くなって足が速まった。

始発にはまだ時間があるが、スタッフは早出している。診療所のドクターの姿を見つけた。

「おい、先生よ!」

白衣の裾をひるがえらせてドクターが振りかえった。
「やあ、シド。寝不足だね、顔色がよくない」
「何か連絡が入っているのか」
尋ねたときにハッチが開いて、担架が下りてきた。

金髪頭だ。
つきそう少女と、それに歩調をあわすフライトスーツ、
「シエラ!」
言うよりも先に走り出した。

ゴーグルが朝日にキラリと光った。
「艇長、只今戻りました」

大きく一つ溜息をつくと、シエラのゴーグルを額にどけた。
「よく帰ったな…」
そう言うと、がばっと抱きついた。

クルーたちが横を通りすぎていく。

「ちょっと、恥かしい、重い、」
「うるさい、だまれ」

ジョディが通りがかって、ひらひらと手を振って行ってしまった。

「心配させちゃった・・・」

シエラはこの人と一緒にいてよかったな、と、嬉しくなった。

唇が熱かった。
本当にちゃんと寝たのかしら、私のすきな蒼い目が充血してるじゃない。滑走路の真中だけどまあいいか、苦情を言えば500倍で返されるから。

【シエラ〜〜〜、もういいだろ〜〜〜、
          続きはよそでやって、ちょっとどいてくれ〜〜〜】

ゲルニカの操縦席から声がかかった。
もちろん、マイクでエアポートじゅうに響いたのは言うまでもない。

 

 

 

チャーター機の出発時間が迫っていた。

控え室で手短にチョコボファームの様子を語ると、シエラはシドの蒼い瞳を覗きこんだ。
「ちゃんと眠りましたか?」
「大〜丈夫だよ。お前こそ、晩飯だとかはかまわねぇから休めよ、
わかったな」

第六感というのか、いつになく不安な見送りに思えた。

久しぶりに飛んだせいか?

シエラは珍しく自分から唇を寄せた。

「こんなことなら、お前を毎日フライトに出そうか」
にっと笑うとシエラと額をあわせた。
なんだか照れてくすっと笑うと
「あらうれしい、あなた寝不足になるわよ、」
シドの調子に乗せられっぱなしだ。出発時間がきた。

 

 

 

 

 

 

一時間ほど眠っていたようだ。
まだ緊張が解けないのだろうか、クラウドの様子が気になるのもある。
シエラは診療所に収容された二人の様子を見に行った。

 

診察室ではヴィンセントがドクターと話し込んでいた。パソコンのモニターを前にドクターが感心するやら、驚くやら。

ナースがシエラに気付いた。
「シエラ、よく寝た?」

2人はモニターにくぎ付けだ。

「朝早くからお疲れ様でした。あの2人は?」
ナースが落ちついた顔でうなずいた。
「大丈夫よ、安心して」
「2人きりのほうがいいかしら?」
「ええ、熱も随分下がったから、回復は時間の問題でしょう」
「若いですからね」
くすくす笑った。

「大体わかったよ、本当にどうもありがとう」
「こんなものが見つかるとは、予想外だった」
「そうですね、おやシエラ」
「おはようございます」
「よく連れて帰ってくれたよ、彼はよくよく運が強いね」

「それって、ジュノンから届いた・・・」
「ああ、あの頃、科学者の心を虜にしたガスト博士のファイルだよ」
「ヴィンセントさん、あなた・・・」

「………………」

「私が無理に頼んだんだ、辛いだろうにすいませんでした」

「ジェノバ計画のことは一通り話した。内容を正確に把握しておく必要があるならば、私が話すのは当然だ。」

紅い瞳がいつもよりさらに紅く感じた。

「おかげでクラウドくんの体を理解するのにとても役に立ったんです。血液検査の結果を見ればもっとよくわかるはずです。」

棚の上にある試験管を見た。

「熱が下がって落ちついてからもう一度採血します」

 

 

 

「ユフィさん…」
返事がない、シエラはそーっとドアを開けた。

思わず笑顔になってしまった。

足音を忍ばせてクローゼットから毛布を出した。汗と涙に汚れた顔がこんなに可愛いなんて。
シエラは胸が熱くなった。

クラウドのほうも、呼吸が落ちついている。
頬に手を伸ばしかけてやめた。私が心配することではなさそうだ。
クラウドの手を握り、ベッドサイドにもたれて眠ってしまったユフィに
やさしく毛布をかけて退室した。

この2人は、もう大丈夫…かな。