旅の途中

 旅の終わりに

 

 

 

ごごごごご・・・・
右舷に緩慢な揺れが数秒続いた。
「艇長!出力が落ちています。」
まばゆい光が落ちついてくるにしたがって、飛空艇・ハイウィンドもあちこち損傷が確認される。
【エンジン過熱!もちません!】
いくらなんでもやりすぎたな。あいつ、怒るぞ。いけねぇな、ここで無理すると・・・
「推進力が落ちてるな、よし!一旦着陸だ。」

眼下に見えてきたカームめざして、【星を救う船】は高度を下げた。

「こりゃいけねぇ。きっちり修理しねぇと、スクラップどころか。」
データに目を通すシドは忙しく状況を判断した。

動かすことすらできなくなる、カームじゃあダメだ。

シドはマイクを取った。
【燃料を補給したらすぐに発進だ、行き先はロケット村。各自の故郷まで送ってやりたいが修理が先だ!発進まで40分、乗り遅れたヤツは置いてくぞ!!】

停止寸前の飛空艇から零れ落ちるように飛び出した大きな影は、愛する娘の名前を何度も呼びながら走り出した。

「マリーーーーーン!」
エルミナと手をつないだマリンが両手を広げて出迎えた。

「おーーい、バレットーーー、スグに発進だからなーーー!」
聞いちゃいない男に声をかけるシドの隣をもう1人が飛び降りた。

エルミナをみつけたクラウドも、突き動かされるように走ったのだ。
「あのっ!」
自分でもびっくりするほどの声だった。
見送るティファが、目を伏せてブリッジを後にした。

 

 

むせ返るような藁の香り、黄色ではない、金色に近い羽根を誇らしげにたたえた海チョコボ、セリスは、一番仲のいい人の足音に気付いて小さく鳴いた。
胸元の羽根をいたわるように愛撫するその手は、穏やかなようで小刻みに震えている。セリスはすぐにそれに気がついたのか、嘴をそっと頬に寄せて目を閉じた。チョコボ同士なら、嘴が重なりこつこと、お互いに響き合う愛の会話が始まるところだが、相手の頬はやわらかく、しっとり濡れていた。
「ありがと、セリス・・・」
白く弱々しい手は、セリスの首に回されて、やがて嗚咽が漏れてきた。
黄金の羽根が涙で濡れた。
「くーー」
囁くようにセリスが声をかけた。
「わたしね、すごく心細くて・・・ちょっとだけ・・・泣かせてね・・・」
クラウドが、エアリスのために涙を流すのを、もう・・・
考えただけでも・・・

押し殺した思いは、そういつまでも隠せるものではない。でも、クラウドの前でそういう自分をさらけ出すだけの勇気は・・・ない。
だから、セリス、あなたがいてくれてどんなに嬉しいか、わかる?
まるで・・・
はっ、と顔をあげた。
なんで?あの人を?

セリスは埃がくっついて黒く汚れたティファの引きつった顔を不思議そうにみて、
「くえくえ?」
首をかしげた。
うんと硬い表情のティファは、押し黙ったままチョコぼうを出ていった。

 

 

「よく帰ったね、バレットとうちゃん。」
抱き合う父娘を祝福して、エルミナが声を詰まらせた。

「マリン・・・まりん・・・」
今日はおひげ痛いよとは言わないマリンは、笑顔だ。
「とうちゃん♪」
「あはは!マリン!」
なんだか背が伸びたように思うのは、気のせいだろうか。愛する人を守って、そして帰ってきたぞ。ダイン、エレノア、・・・ミーナ。オレはこれからもマリンのために生きるから。

笑いながら泣いているバレットは、クラウドが走ってきたことにまだ気がつかなかった。

「エルミナ・・・さん!」
肩で息をするクラウドが、エルミナの前に立った。碧の瞳が不思議と懐かしく、エルミナは体の芯が熱くなった。
「クラウド、」
あっ、その微笑!クラウドは自分の中で何かがはじけるのを感じた。
音を立てて崩れていくのは、いつも胸の中にのしかかっていた大きな石。
ほんの少しの勇気があれば、取り除けただろうに
それが今、ふっとなくなったように感じた。

「・・・おかえり」

一番言ってほしかった言葉だけど、
一番言ってほしかった人には言ってもらえなかった。
自分のせいで・・・
旅のあらゆるシーンが嵐のように思い起こされて、
碧い瞳からどっと涙が溢れた。
「おれ、おれ・・・」
その後はもう言葉はなかった。

好きな人に「すき」といえばよかった。悔恨の情が失ったものの大きさを思い知らせたのだ。

溢れる涙をぬぐいもせず、クラウドは声を上げて泣き崩れてしまった。

その声にようやくバレットは、マリンを抱いたまま振りかえった。

「クラウド、ありがとう。あのこは、エアリスは泣いてなかっただろ。」

エルミナのねぎらいの言葉は、クラウドには哀しく、そして号泣を許すあたたかさがあった。座りこんで泣きじゃくるクラウドの手を取って、エルミナも涙をぬぐった。
「あの子は幸せだったんだよ、だってほら、こんなに泣いてくれる人とめぐり合えたんだからね。」

髪を撫ぜられた、こうしてほしかったんだ。エアリスに、こうしてほしかった。
涙が止まらない。クローバーの縫い取りがあるハンカチは、懐かしい匂いがした。いくら拭いてもらっても止まらない、自分でもどうにもできない。
「おれ、おれ、・・・何にも言わないで・・・エアリス・・・」

エルミナはクラウドを抱きとめて、あやすように耳元にねぎらいの言葉をかけつづけた。

エアリスに、抱かれたかった。
エアリスに、こうしてほしかった。

確かにエアリスは、自分を愛してくれた。

一度だけ、抱いてくれた。
不安な自分を受けとめてくれた。

俺はエアリスに愛された、でも・・・
俺はエアリスを愛せたか・・・答えはNo・・・

さあ、あの子が守った星を、受け継いでいかなくちゃ。
エルミナの励ましはそのまま、エアリスの思いなのだ、クラウドは小さく頷いた。

「そうだ、エルミナさん。」
歓喜の涙をぬぐって泥んこになった顔で、大真面目に言うバレットがおかしかった。でもエルミナは笑わなかった、自信に溢れた父親がそこにいたから。
「船の具合がイマイチで、ロケット村というところで修理しなきゃならないんだ。・・・エルミナさん、これからどうするんだ?」
「おばちゃん、マリンと一緒に行こうよ」

あのこも、これくらいの年頃だったわ・・・

「マリンちゃん、ありがとうね。」
バレットはマリンを見た。
「もし、よかったら・・・」
言いかけた言葉をさえぎる笑顔に、バレットは別れを悟った。
「あんたのとうちゃんは強くてかっこいいね、優しくてステキだよ。」
思いがけないエルミナの褒め言葉に、バレットは戸惑った。

目を細めると遥かに霞んでミッドガルが見える。
エルミナは力強く言った。
「あたしは五番街に戻るよ。そこの人に聞いたの、プレートの上はもうだめだけどスラムは何とか大丈夫だってね。」

いつの間にかリーブが頭を掻いて立っていた。

「あの街は、亭主と過ごした思い出がいっぱいつまってるからね。あちこち壊れちまって風景も変るかもしれないけど、確かにあの人と過ごした記憶があるから。」

そうだ、な。オレも、帰るところがまだあった。
いや、オレは帰らなくちゃならない。
お前を独りぼっちにしておくわけにはいかない。

バレットは頷いた。

「船の修理が済んだら、必ずまた会いにくるから。あんたにゃどんなにお礼を言っても足りないんだが!」
「あたしのほうこそ、マリンちゃんと過ごせて嬉しかったよ。」
大きな肩にちょこんと座るマリンを見上げてエルミナは、満面の笑みで別れを告げた。
「バイバイ、マリンちゃん。」
そしてようやく立ちあがったクラウドの背中をどん!と叩いた。

「クラウド、しっかりおし。もう自分を見失うんじゃないよ、私はいつもあなたのそばにいるから、ね。」

確かにそう言った。

ワタシハイツモアナタノソバニイルカラ、ネ。

エルミナは花のように微笑んだ。