旅の途中


てのひら

 

断末魔の苦しみに耐えかねて
敵の攻撃が一瞬止んだ。
「逃がすか!」
クリスタルソードがきらめいた。
マスター寸前まで成長したマテリアが熱くなる。
クラウドは意識を集中した。
眼下にコスモキャニオンが広がる。
見事に命中したサンダガで辺りがまばゆく輝いた。
モンスターの絶叫で空気がびりびりする、
「やった、」
肩で息をするクラウドは勝利を確信して剣を納めようとした。

空間が歪む

高密度のエネルギーが押し寄せてきた。ファイガを唱えていたティファは、足がすくんでしまった。
あっ、と、クラウドが手を伸ばした瞬間、ティファはまばゆい光に包まれた。
「ティファ!!」

モンスターは名も知らない森へと落下していく

「しっかりつかまってろぃ!」
ブリッジのシドは、弟子から舵を取り上げると、ハイウィンドは必死の急旋回で衝撃波から離脱した。


あ、私、燃えちゃうんだ。
モンスターと視線が合ったとき、体の力がすっと抜け落ちた。白い光が視界を揺さぶった。

ふいにティファの視界が暗くなった。

大丈夫だ、何も心配いらねぇ。
もう誰にも、お前を傷つけさせゃしない。
大丈夫だからな・・・
俺の、
大切な・・・

岩山を吹き飛ばし、大地を揺るがす轟音とともにモンスターは跡形もなく消え去った。

 

 

 

もやが徐々に晴れて、クラウドはひきつった顔でティファを探した。

ティファはデッキのすみに飛ばされていた。
傍らにはバレットが気絶していた。
「大丈夫か、ティファ!!」
駆け寄るクラウドにティファが叫んだ。
「早く、【そせい】マテリア取ってきて!早く!」
見たこともないこわい顔だった。怒鳴るように、問答無用の鋭さで命じた。気迫に押されて、二、三歩引いてしまった。

【そせい】マテリアを取り上げて意識を集中すると、青白い光が掌から溢れだし、バレットを包んだ。ティファは精神力のありったけをマテリアに託した。

ぐらっと、ティファの体が崩れた。
「おい、ティファ!」
驚いたクラウドが助け起こそうとした。
ぱっ、と、その手を払いのけてバレットの頭を膝に抱いた。
「バレット、バレット!」
レイズが効かないなんて、
「バレット!!!」
今度はアレイズを唱え始めた。

シドもヴィンセントも、デッキに出てきた。
「クラウド、無事だったか」
深刻な顔のクラウドが、シドを見た。
「いや、まずいかもしれない」
「ティファか?」
「ちがう、」

シドはティファを見た。
気丈な娘だ、小刻みに震えながらも唇をきゅっと結んでバレットを介抱している。どうやら魔法だけでは間に合わないようだ。
「悪運の強いヤロウだぜ、コスモキャニオンなら手当ても十分できるってもんだ」

 

ハイウィンドはコスモキャニオンで修理することになった。
「いやーー、ハデにやったもんだ。シエラが見たら卒倒するぞ。」
モンスターに何度体当たりしたことか、久しぶりに血が騒いだ。まったく落っこちなかったのが不思議なほどだ。クルーも育ってきたし、こりゃ、将来が楽しみだ。シドは鼻歌混じりで楽しそうに修理を進めた。

 

 

バレットはなかなか目を覚まさなかった。

【アレイズ】が効いたらしく、うめき声をあげてティファの手を微かに握り返してきたが、まだ意識は遠のいたままだった。
「俺がみてるから、休めよ」

顔色が悪い。

魅力的な黒髪は乱れ、艶もなく、大きな目だけが異常にギラギラしてる。疲労の極致なのはクラウドの目にも明らかだ。それでも、かぶりを振ってバレットのそばから離れようとしない。
「ティファ、ほら、ご飯だよ、」
ユフィが気を遣って食事を運んできた。
「クラウドが心配してるじゃん、ほら、」
なんだか気まずい空気に、ユフィは困ってしまった。いつもと違うティファの態度に、クラウドは不快感を顕にした。
「ティファ!いい加減に、」
クラウドが声を荒げた。
「よせ、」
部屋の隅にいたヴィンセントがティファに近寄った。そっと肩に手を置いて、何を話しかけたのだろう?
「だって、わたし・・・」
それだけ言うとバレットの大きな左手を握り締め、額をくっつけて祈るように目を閉じた。

「う〜〜ん・・・」
顔をしかめてようやくバレットが目を醒ました。
「???バレット!???」
「おぅ、ティファ、ぶじだったか、いてて・・・」

みるみる泪が溢れてきた。

顔が歪んで、体が震えた。

「ばか、心配したんだから・・・」
それだけ言うと、バレットに取りすがって声をあげて泣き出した。
「おいおい、どうしたんだ!?」
えいさっと、身を起こしてティファの顔を見た。

「バレットにもしものことがあったら、マリンはどうなるのよ!私なんかをかばって・・・私、マリンに何て言えば・・・」

鼻水までたらして泣きじゃくり、それだけ言うのがやっとだった。

バレットはぽりぽり頭を掻いた。

「そうだな、けどよう、ティファ、オレにとっちゃ、お前もマリンと同じだけ大切なんだよ。大事な・・・仲間だ」

ぐじゃぐじゃのまま、小首をかしげるティファが印象的だった。ぬぐってもぬぐっても、泪はこぼれる。

「ありがとうよ、ティファ、アレイズが効いたみたいだ。鼻の奥がじーんとしたぜ」

抱きとめるバレットの顔が照れながらも暖かだった。

「おあついじゃん、お2人さん!」

ユフィが笑っても、クラウドは笑わなかった。

 

 

 

 

「俺が油断したから・・・」
慢心があったと、クラウドはうなだれた。
飛空艇の手入れをするシドは、黙って聞いていた。
「あのサンダガで決まったと、思ったんだ。それに」
シドはこちらを向きもしない、手も休めない。
「あんな攻撃がくるなんて・・・誰も思わないじゃないか」
「アルテマウェポンのシャドウフレア・・・元ソルジャーが、習わなかったか」

金髪が風にそよぎ、クラウドは返事をしなかった。

「・・・なぁ、シド」
聞くのが怖かった。
でも、黙っていると自分のなかで大切にしたいはずのものがどんどん薄汚れていくようで、やりきれなかった。
「バレットは、【てきのわざ】をつけていたんだ。でも・・・」

工具の金属音だけが響く。

「【かばう】をつけていたのは、俺だったんだ、なのにどうして!」

ティファをかばったのはバレットだった。

ぱちん、修理完了。工具をしまってシドはタバコをくわえた。ジッポーがカチリと開いて、ゆらめく炎が白いタバコにまとわりついた。紫煙を漂わせるシドに、なぜか腹が立った。

一度も自分を見ない。

「マテリアのことは、まだわかっていないことが多いからなぁ」

それだけ?
それだけで、終わるな!

ジャケットを担いで歩き出したシドは、何事もなかったような顔で振りかえった。

「おおそうだ、さっきの爆風であの【森】に入れるようになったぜ。ユフィとでも行って来い、たいしたマテリアやらすごい剣があるはずだ」

 

 

うつむきがちにクラウドは掌を見た。

あのモンスターを攻撃していたとき、ものすごく楽しかった。あのときだけではない。バトルになると、自分の中に誰かが居るような感じがする。そいつがけしかける、

「殺せ!ぶった切れ!!」

敵が足元に這いつくばってのたうち回るのを見ると、えもいわれぬ快感が体を突き抜ける。
嬉しくて仕方がなかった。自分が強いことを実感できる唯一のとき、それがバトルだった。

戦うことで、ティファを守れると、思いたかった。
けれど、
けれど・・・