旅の途中

Second kiss

 

壊れた魔晄炉で【タイタン】のマテリアを見つけてから、エアリスの心は乱れていた。

モンスターの何でもない攻撃に、あっさりクリティカルヒットを許すし、リミットゲージが一杯になるところでダウンするから、パーティーは苦戦を強いられた。
クラウドがカウンターをつけて健気にかばうから、なんとか窮地は切り抜けるが、かわりに彼の疲労は溜まる一方だった。

 

その夜、壊れた魔晄炉を見ながら焚き火を囲むメンバーは、エアリスを先に休ませた。

「・・・とにかく、エアリスはしばらくパーティーから外そう。」
さすがのクラウドも、妥当な選択をした。

「けどよう、辛いぜ。風なしってのはよ」
オレが【かばう】を使ってもいいぜ、バレットとしても、いま少しレベルを上げたい。

「オイラががんばるから、」
ナナキだってエアリスの様子が変なことは理解できていた。

「忍術を忘れてるよ〜」 
夕方になって明鏡止水が使えるようになって、やる気十分のユフィが型を決めてみせた。

「…………」
ちろちろ燃える赤い炎をじっと見つめるシドは、珍しくタバコを加えていなかった。

 

 

「んじゃ、とにかく、明日の先発はクラウドと、ユフィと、それから?」
見渡したバレットがいつになく静かな男に注目した。
「あんただよ、シド!」
呼ばれて顔を上げてまたすぐ焚き火を見た。
「あん?・・・悪いがオレ様もはずしてくれ、ナナキ、おまえ行け」
それだけ言ってテントに引き上げてしまった。

「あら?どうしたの、シド?」
嫌がるエアリスを寝かしつけていたティファが、すれ違いざまにシドに声をかけた。が、軽く右手をあげただけで振りかえらなかった。

 

ザックス――
思いもかけないところで名前を聞いた。
ジュリアのことを放り出して、もう5年か。
エアリスとも知りあいだったのか・・・

 

 

夜中に目が覚めた。
ザックスが呼んでいるような気がした。
月のあかるい夜だ。

シドはテントを抜け出した。

焚き火のそばにエアリスがひとりぽつんと座っていた。
「よぉ・・・」
眠れねぇのか、タバコを探してポケットに手を突っ込んだ。
「いくらなんでもあんなに早く寝たら、」
そりゃそうだ、寝る子は育つにしても限度がある。
月の明かりに照らされて、エアリスはますます神秘的で美しい。古代種、この娘の背負う宿命を暗示しているような月の夜だ。

シドはエアリスの横顔を暫く眺めていた。

「ねぇちゃん、オレ様は今から少しひとりごとを言うと思う。聞きたくなくなったらテントに帰ってねんねしてくれ。」

言おうか言うまいか、考えてシドはそんなふうに話しはじめた。

不吉な言い方かもしれないが、エアリスと2人だけで話せるのはこれが最初で最後のような、そんな気がしたからだ。

「どうしたの、シド?」
シエラさんのことでも話してくれるのかしら?
後学のためになるなら聞きたいな、のろけだしたら逃げればいいし、エアリスもシドの本意が掴めずにいた。

焚き火がぱちっと音を立てた。

「・・・もう6年ぐらい前になるな、ザックスとすれ違ったのは」
エアリスが目を丸くした。
「シド、ザックスを知ってるの!?」

タバコをくゆらしながら続けた。

「神羅ビルの66階でな。作戦会議で同席したのが初めだ。あの野郎、会議中、目を開けたまま眠ってやがった。オレ様はきちんと目ぇつぶってさ」

ふっと笑みを浮かべると、灰をつんつんと落とした。

「それから一緒に飲むようになったんだ。ソルジャーのくせに下まで降りてきやがって。賑やかってーのか、うるさいってーのか。」

2本目のタバコにチカチカと火をつけた。

「会うたびに違うおねーちゃんを連れててな、」

シドはチラリとエアリスを見た。あわてて視線をそらしたエアリスが可愛かった。
「お、今のはオフレコだ。」
子どもじゃありませんよ、ちょっと怒った目つきでエアリスが恨めしそうにシドを見た。
「とにかく、よく一緒に酒を飲んだんだ。陽気な、いいやつだった」
別に待ち合わせるでもないが、来るな、と思うとアイツは来た。要するに気が合う呑み仲間といったところだった。

「それが五年前、ある任務に出てそれっきり消息不明さ。オレ様もそのころちょうどロケットの仕事が入ってきたりで。探すったって、ソルジャーは存在そのものが機密事項だからな」

ふうぅと紫煙をあげると、焚き火に吸殻を投げ込んだ。

「10日たっても、やつらを迎えに行ったってのが誰もいねぇ。変だと思っていたらセフィロスの死亡記事だ。
あいつぁ、セフィロスと一緒に出た。なのに英雄以外の名前なんぞ、新聞のどこ探してもなかった。ま、当局の隠蔽工作なんて別に珍しくないがな。」

炎に照らされたエアリスの横顔が絵のようだ。

「あの日、台風を押してまで送っていかなけりゃ、ひょっとしてって思うぜ。その任務にゃ、このオレ様が送ってやったんだ。」

唇が2度歪んだ、何か言おうとしてエアリスはこわくてやめた。

「とにかく、あいつぁ、いい奴だが・・・ソルジャーだ。あんたがあいつとどんなつきあいだったかは、オレ様にゃ関係ねぇが・・・思いつめちゃいけねぇ種類の男だってことだ」

 

思ったとおり、ひとりごとを最後まで聞いたエアリスは心なしか震えているようだった。

辛い話になっちまったな。

ううん、いい。ずっと気になってたし。

「な、なんでぃ?」
エアリスは本当にさりげなくシドの隣にくっついて座りなおした。
「ちょっとさむいよね」
自分の背負う宿命に、この娘は独り立ち向かって、独りで耐えている。シドは胸が痛かった。

「・・・ほれ、」
自分のジャケットをエアリスに羽織らせてやった。エアリスはタバコの臭いがするジャケットの衿を抱きしめてシドを見た。
「シド、ほんとうはやさしいのね」

ほんとうはとはなんだ、ほんとうはとわ!

「・・・シエラさんて、すてきなヒトね、私、ファンになっちゃった」
「とんでもねぇ女だぜ、あいつはよ」
「くすくす、そんなこといってもいいの?」

うかつだった。
村を飛び出したその日、つい連絡をいれたのでナンバーがメモリーされてしまった。
すぐに消去しておけばよかった・・・
でもシドがケータイを手にしようとすると必ず誰かがにやにやするから、面倒で使うのをやめていた。

「デンワすんなよ、」

いちいちケータイぶらぶらさせやがって、体に悪いったらありゃしねぇ

くすくす・・・

「・・・大事なひと?」
「大事な・・・か」

なんだか、ハラに力が入らない

「あいつは、オレ様なんかにかかわってていい女じゃねぇんだ。こうしてあんたらと飛び出して、今ごろせいせいしてるだろうさ」
「なぁにそれ、言ってること全然わかんない」
「オトナになったらわかるだろうよ」
「違うと思うけどな〜」
口をとんがらせて月を見上げた。
それだけを見ていればほんとうにただのお嬢ちゃんなのに。エアリスは古代種の最後のひとり、この星にたった独りの存在。

 

「ねぇシド、さっき、ソルジャーに本気になっちゃいけないって、」
「・・・クラウドか」
「はっきり言うんだから」

身を硬くしたエアリスは、わざとかどうか、シドのニの腕に頭を預けてきた。花の香りが鼻腔をくすぐる。

「おいおい、オレ様は見てのとおり、紳士なんかじゃねぇぜ」
はっと離れて、照れを隠すように、そのくせしっかりとケータイをぶらぶらさせてみせた。

やれやれ、ちかごろのねぇちゃんときたら・・・タチが悪いぜ。

シエラの顔が浮かばなかったといえば嘘になる。
でもシドだって、美しい娘が寂しそうに寄り添ってくれば目眩だってするのだ。

「それで、クラウドがどうしたって?」

こそこそと膝を抱いて、ちょっとだけはなれて座りなおしたエアリスが上目遣いにシドを見た。

その手にゃもうのらねぇぜ、シドはもう何本目かのタバコをくわえた。

「うん、」
じっと炎を見るエアリス。
「クラウドも、ソルジャーでしょ」
「そうらしいな。本気になるなよ」
こういうことはスパッとコメントするのがいい、シドはピシリと言った。
「でもね、」
「あん?」
「誰にも言わないでね・・・」
「事と次第にもよるな」

我ながらイジワルだ

「お願い・・・」
両手を合わせて唇の下にもっていった。

この!
シエラの真似すんな!
「わーったよ、言わねぇから!それやめろ」
「???顔あかいよ、大丈夫?」
「ほれ、気の変わんねぇうちに喋っちまえ、早くしねぇと聞いてやんねぇぞ」
「いじわるねぇ、シエラさんたら、こんな人のどこが」
「こら、話しが違ってんじゃねぇか、帰るぞ」
「は?ごめんごめん」

まったく、このオレ様をコケにしやがって

「おかしいと思わない?だってソルジャー1stなんて、何人もいないのに。どうしてクラウド、・・・彼の名前を知らないなんて・・?」

「エアリス、それは言うな。あのツンツン頭は相当、わけありだ」
「今日、ゴンガガに来て思ったの、変だなって・・・」

「確かに、オレ様の知ってる限りじゃぁ、あの頃でクラス1stは12人までいたぞ。クラス1stはとにかく目立つからな」

なのにクラウドはザックスを知らない。

「私、クラウドがソルジャーでなくたっていいの、ううん、ソルジャーじゃないほうがいいな」

なぜだろう、シドは胸が熱くなった。

「だな、あんたはあの野郎をクラス1stだとか2ndだとかで見てるわけじゃなさそうだ」

花のような笑顔のエアリス。

「わかる!」

俯いたのは、エアリスに心の中を見透かされる気がしたからだ。

「けっ、バカらしい。そこいらのガキと同じにしないでくれ。」

「見守ってやれよ、『クラウド』って男をよ」

見つめられたらすいこまれそうな・・・その瞳?シドって?

「ありがと、シド」

シドはエアリスの真顔に気がつかなかった。

「あいつぁ、自分探しの最中だからな・・・」

シド、かっこいい。だいすき・・・

「うん、そうする」

へくしゅん・・・

「やっぱりさむいよ、それじゃあ」
「あんたならだっこしてやってもいいぜ」
「だっこする相手が違うでしょ、・・・シド、話してくれてありがと、これあげる。おやすみ」
ぽいとケータイを渡してよこすと、ジャケットを肩に返して、
「こらっ!」
頬にキスされた。
慌てるシドにひらひらと手を振るとテントに消えてしまった。

ほんのりと花の香り

大人なのか少女なのか、まるでわからない。とてもじゃないが、クラウドの手には負えないな。にしても可愛いじゃねぇか・・・

ぷちぷち・・・

「おう、オレだ・・・起こしちまったな・・・変わりはねぇか・・・」