旅の途中

ナナキの災難

 

静寂の中、身じろぎもできず、甘い花の香りに包まれて独り眠れず悶々とするのは、ナナキ。

ゴールドソーサーを彼方に仰ぎ、今夜は砂漠に程近いここで野宿になってしまった。特有の夜間の冷え込みが、彼をこの花園に招じ入れたのだ。

さかのぼること2時間まえ。――

「やっぱり砂漠は冷えるな」
一張羅では今夜はきびしい、バレットは肩をすくめた。
「今夜はうかつに寝ちまうとえらいことになるぜ」
シエラの心づくし、デイバッグをかきまわすシドもくしゃみをした。
ぱちぱちとはぜる焚き火を無言で見守るヴィンセント。
「けど、少しは眠っておかないと、明日に響く…」

そんなこと、誰でもわかってるんだよ、3人に睨まれてクラウドは寝袋にもぐりこもうとした。電源をスタンバイにしたケット・シーがぞんざいに置いてある。ちょいと蹴ってやればじきに起動してうるさいから、誰も近寄らない。

困ったことにテントが一張りしかなかった。

どう考えても女性陣に明渡すのがスジというものだ。

諦め顔の男どもが焚き火を囲む前に、スウェットに着替えたユフィがしゅわっちゅ、とテントから飛んできた。

「さっぶ〜〜〜、まいったよーーーもぉーー。いつまでもカエルの相手ばっかしてっから〜〜。こんなとこで野宿だなんても〜〜〜」

「おめぇがレベル上げだなんてくだらねぇこと言い出したんだろうが!カエルになってばかりでょ。」

薪の小枝を投げつけてシドが怒った。

「怒んないでよ、オジさん。このユフィさまがあっためてあげるから〜」
いかにも、といった感じで両手を可愛く広げてみせた。
「あっはっはっ・・・うれしいこと言ってくれるね〜お嬢ちゃん、」
くわえていたタバコを焚き火に放りこんで、しっしっとユフィを追っ払いながら明後日の方、正確にはロケット村の方を向いた。
「いらねーよ、おめぇみてぇな出るとこも出っ張ってねぇのはだっこしねえんだ」

バレットも面白がって続けた。

「クラウドあたりなら喜ぶだろーよ」
指名されてむっとするクラウド。どういうわけか、赤面するユフィだが、薄暗がりで誰も気づかなかった。

「なんだよ、クラウドなんかお呼びじゃないんだよ」
「呼ばれたくもない、」
ふん、興味なんかないと背中を向けるが、いい気はしなかった。

テントがもぞもぞ揺れて、これまたパジャマに着替えたティファが顔を出した。くまのパジャマがかわいい。
「馬鹿なこと言ってないで、ユフィ。早く呼んできてよ。寒いんだから〜」

男性陣、といっても、オジさん2名が色めき立った。

「誰を呼ぶって?」
早速立ちあがるバレット。
「ねえちゃんたちなら大歓迎だぜ」
一口も吸っていない煙草を放り出すシド。

ひまわり柄のパジャマのエアリスもティファの横から顔をだした。
「言いつけちゃうわよ〜、シド〜」

ケータイをぶらぶらさせてみせた。

「ははは!女房持ちはすっこんでろい!」
「何度同じことを、このヤロー!違うって言ってんだろーが!!」

槍に手をかけてむきになって怒る。

『誰が信じるか、バカ』
バレットが鼻を鳴らして小声で言った。
サッサと寝袋を確保したクラウドは、騒ぎをぼーぜんと眺めていた。

「ん、もう!……ナナキぃ」
ひらひらと手を振ってエアリスがにこにこした。突然のご指名に、尻尾が反応した。
「え、オイラ?なに?」
完全に知らん振りしていたから、バレットとシドの刺すような視線が何事かわからず、とりあえず立ちあがった。
「いーから、来てよぉ」
ティファも甘い声で呼んでいる。
「はい、じゃおやすみぃ〜」ユフィにせかされてナナキはテントに連れて行かれた。

うふふ…
きゃ…
あったかい…

テントからは娘たちの笑い声がこぼれて来る。

ちょっとぉ、
やん、
やだ、って。
やめてよぉ…

バレットとシドは顔を見合わせた。

い〜からぁ…
あ、わたしも、
そ、それは…
いれちゃお…

「い、入れちゃお、って?」
「おい、クラウド、お前ちょっと行って見てこいよ」
関係ない、と、ふて寝しているクラウドの頭を蹴って、バレットがとがった声を出した。
「俺はお呼びじゃないから、知らない。見たけりゃ自分で見てこいよ」

スカしたヤロウだ、バレットはあきらめたのか、寝袋のジッパーをしめ直した。

ぷかぷかといい調子で煙をあげるシドも、溜息を一つついた。
「ナナキめ、うまいことやりやがったな」
相変わらず無言で焚き火を見守るヴィンセントは、シドの紫煙を眺めて狼煙だな、と、率直に思った。

 

 

3人の娘に取り囲まれたナナキは、むせ返るような甘い、みょ〜な香りに泣きそうになっていた。

これじゃぁ眠れないよぉ〜
背中のあたりに、ティファの…なんか今、むにゅーって、なに?
オイラの首ねっこ抱えてるのはユフィだ。
エアリスって…
寝相悪すぎる、もう2回もけとばされた。

でも、
みんな可愛いな。
いっぺんに3人の女の子の寝顔が見られるなんて。
なんか、頼られてるみたいで…悪い気はしないな…恋?かな?…ちがうよね。

 

 

夜明けの青白い空気。
またいつものように一日が始まる。

きゃ〜〜

なんだ?どーした?

寝袋の男どもがまだ眠い目をこすった。
テントからナナキが飛び出してきた。
ケットシーにぶつかって、ネコが転げ落ちた。
「んたっ!なにすんねん!」
スタンバイから醒めるとたいてい、ツッコミがはいる。
マントに身を包んで結局夜通し焚き火の番をしていたヴィンセントが、ゆらりと立ちあがってテントに近づいた。
「何かあったのか」
そっと入り口をあけた。
だめだよう、ヴィン!ナナキの声より早く、
「む、し、失礼!」
俯いてヴィンセントも退散した。いつになく、顔色がよろしい。赤面していた。

 

「んもう、ひどいんだから…」
尻尾を気にしながらナナキがくしゃみをした。
「何でぃ、虫でもでたか?」
寝袋を半分だけ脱いで、目覚めの一服をくわえたシドは、残り火をつついてみた。
「ティファったら、オイラのいること忘れてさぁ、ユフィもだよぉ」
ユフィがさっさと起きぬけたところにティファも目を覚まして、いつものように着替え始めた。昨夜はナナキを抱いて3人してぬくぬくと寝たことなんか綺麗に忘れていたらしい。
ナナキが目を覚まして伸びをしたら、下着姿のティファと視線がバッチリあって、悲鳴となったそうだ。

「いい思いしたんだから、それぐらい我慢だな。飲むか?」
バレットはコーヒーを入れるのが得意だ。
「こりごりだよ〜もお〜、今度はバレット、行けば?」
シドは2本目のタバコに火をつけた。
「それで、なんでアイツまで赤面してるんだ?」
はるか彼方、米粒ぐらいのサイズになるほど遠くにいるヴィンセントに向かって煙をはいてみた。
「きっとエアリスだよ、ものすごい寝相だったもん、」
オジさん2人は顔を見合わせた。
「そ、それより、なんだ、こいつ?この騒ぎでも起きねぇぞ!」
クラウドは低血圧だった。
「こいつめ、寝首を掻かかれるぞ・・・」

今日もまた星は廻る。
それぞれの思惑を乗せて。