旅の途中

Tiny BRONCO

 

「おい、そのケータイ、ちょいと貸せ」

「……おう!オレだ、そうだ。……このオレ様がそう簡単にくたばるもんか!……若社長なんざ、うまいこと言って追っ払え!…… かまうもんか、もう潮時だ。傾いたロケットでこのオレ様を飼い殺しにしてたやつらなんか、こっちから願い下げだぜ。……同じことを言わせるな!……そうだよ、おもしろくなってきやがった、まあ見てなって。……おう、わかったわかった。じゃあな」

ぷちっ、っと。

日暮れが近づいたのに町も村も見えない。チビ野郎を砂浜に押し上げて、翼の下にテントを張った。

今夜は野宿だ。

残りのメンバーとも合流した。
「はーい、おまたせ!できましたよー」

黒髪のネェちゃんは料理が上手い。
「ごめんね、せっかくメンバーが増えたお祝いの夜なのに。ありあわせだけどたくさん食べて!」

手際がよくて感心した。

「ねぇシド、どこにデンワしてたの?ホントは奥さんなんでしょ、えっとシエラさん」

花売りのねぇちゃん、エアリス…だったな。

「はっはっ、違うって。アイツはよう、ドンくせえから。オレ様がビシバシ言ってやらねぇとなーんにも出来ゃしねぇんだ。」

そうさ、朝まで寝ずに待っているだろうからな。

「本当〜?あたし、シエラさんに『艇長のことをよろしくお願いします』って頼まれちゃったわよ」
「へぇー、何を頼まれたの?」
ティファも何か面白そうなことに気がついたらしい。

いかんいかん、ムスメどもは2人以上になると、ないことないこと、ピーチクさえずるものと相場が決まってる。

「えへへ、あのね、シドがね、ふぁがっ、」
慌てて口を押さえると波打ち際までエアリスを引きずっていった。

「あれぇ、どうしたの?」
尻尾をふるふるさせて割りこむな!

「(ちょっと来いって)」
じたばたするな、いけないおじさんみてぇじゃねぇか。

「シエラが何だって?」
「もう、なにすんのよ!びっくりするじゃない」
前髪を直しながら口をとんがらせた、可愛い顔だ。

「それはオレ様のセリフだ、シエラが何、余計なことをあんたに言ったんだ?」
「気になるでしょ。」
「あいつぁ、下らんことを言わせると世界一だからな」
「あのね、」

急に大人びた顔になった。
「…………忘れちゃった!」
「このやろう、だましたな!待ちやがれ!!」
エアリスはどうやら逃げ足は速いみたいだ。

総勢七名と一匹、オモチャが一体、こんなんで神羅を向こうに回して大丈夫かい?不安は隠しきれないが、まぁなんとかなるだろう。

 

そらぁそうと、

さっきからコクピットのすみっこにあるデイバックが気になって仕方ない。
オレ様はあんなもん、積んでないぞ。メシを食い終わったら見るとしよう、どうせシエラだろうがな。

 

 

 

寝つきのいい連中だ、10時にもならねぇうちからすやすやとまぁ。

今夜は月がない。

星明りの夜だ。

ちくしょう、神羅の連中め、よくもオレ様からなんもかんも取り上げやがったな。

 

久しぶりに夜空なぞ見上げたから、また思い出した。
タイニー・ブロンコの一騎打ちのことを。

返す返すハラがたつ!くそっ。( ご参考:「決闘だ」 )
                   おい、余計なタグなぞ打つな!

 

修理が済んで2人で見上げた空がこんな感じだった。

「夜空ってこんなに星があったのね」

「オレ様は行ってみせるぜ、」

「そうね、私たちもがんばります。きっと成功よ」

そのお前のせいで、失敗だ。
いっそ、お前の望み通りにしてやればよかったか?ふん、オレたちゃあ、2人しておっ死んでたかもな。それもまた良かったかも知れネェ、恨みっこなしだ。

降るような星空の下、シドはごろりと寝転がった。星が、空が、「ここまで来い」と呼んでいるようだった。

「お前、幾つから操縦してるんだ?」
「え?神羅のパイロット試験に合格したのは、21だったかしら」

シエラも隣に腰を下ろした。ちょうど良かったから膝を借りて枕にした。

「実戦には出てねぇな」
見下ろす瞳が優しい。

いちばん輝くこの星を、きっと手に入れてみせる…

「テストパイロットをしたくて試験を受けたんです」

やわらかな頬に手をやると親指が唇に触れた。
昔むかしのファースト・キスよりも、さっきのほうが嬉しかったのはなんでだろう?きっとこいつとだからに違いない。

シエラはオレ様の髪をそっと撫ぜた。
もう片方の手を取るとアイツは笑った。

手の甲に口づけをした。

「それにしても、ハイウィンドとじゃあ、随分勝手が違うだろうが」
「でもあの翼には愛着がありますから」
「なんだ、お前、あのチビ野郎にもいっちょ噛んでんのか?」

なんだか瞼が重くなってきた、膝枕たぁ、気持ちのいいもんだ。

「あれは子供の頃からずっと、夢に描いていた翼です。」
格納庫を愛しげに見つめて言った。
「子供の頃だと!?」

シドは飛び起きた。

「初めてスケッチしたのが、あの翼。エンジンまで考えたんですが、燃料がネックで…ずっと温めていたんです」

まじまじとアイツの顔を見てしまった。

「あん??」
「魔晄エネルギーのおかげで、実用化できたんです。そのエンジンが」

思わずシエラの言葉をさえぎってしまった。

「お前はどういう子供時代を送ってたんだよ?」
「どういうって、父が飛空艇乗りなもので……。よく乗せてもらいました」
「どこの所属だ、親父さんは」
「いえ、どこにも所属してはいません。かっこよく言えば一匹狼、早い話が自営業です」

心当たりがある。

「いろんな物を運んだり、請け負ったり。社長なんですよ」

汗が出てきた。
多分、あの人だ。

あまりに偉大な、あの名前に違いない。
でも聞かないでおこう、こいつは親父の知名度を知らないだろう。あの人の娘なら、そうかもしれない。きっと仕込んだのに違いねぇ、メカニックの技能から空の飛び方から。……大変なヤツを気に入ってしまったもんだ。

「ふうん、んで、お前は技術屋ってわけか」
タバコだ、タバコ。一服吸わにゃ、気取られてしまう。
「ええ、ある方に見てもらいたくて、せっせと製図を引きました」
「ん?誰だ、そいつぁ」
「いいんです、もう見てもらいましたし、とても喜んでくれていますから」何て幸せそうな顔なんだ。こりゃ、男に違いネェ。

「あのチーフか?」
「いえ、チーフは違います」
「好きな野郎がいるのか?」
耳の付け根まで真っ赤になった、星明りでもわかるほどだ。
「すき、っていうか、」

聞き捨てならないぞ。

「まずいな、そいつともケリをつけねぇと、あとあと面倒だぞ」

吸殻を踏み潰す足に力が入る。この女のことが自分の中でどんどん大きくなってくる。

「もういいんです。私、あなたとの勝負に負けたから。約束しちゃったでしょ、」

シエラは駆け出した。

「やっぱりシドさんは、思ってたとおりの方でした!」

訳のわかんねぇことを言いやがる。今日会ったばかりだぞ!

「明日からまた頑張ります、おやすみなさい!」
手を振って行ってしまった。

 

 

 

タバコがいつのまにか短くなった、もう一本おかわりだ。
結局、あいつは誰に図面を見てもらいたかったんだろう。好きなやつたぁ、誰のことだったんだろう?オレ様があんなにネジ巻いたんだ、あいつもまんざらでもなかったのに。
ほかに好きな男がいたのかどうか、もう今じゃどうでもいいんだが。思い出したら気になるもんだ。

そうだそうだ、デイバックだ。

コックピットの足元から非常灯を出してきた。デイバックを開くと、新しいグローブと着替え、それから薬、なんだこりゃ、パワーアップにガードアップ、ラックアップ……パワーリストに防弾チョッキ、それからメモ書き

【死なない程度に ご活躍をお祈りしています  S 】

かき集めたもんだ、ありがとうよシエラ。


オレ様はもう、わくわくしてるんだ。

夜を寝るものと決めたのは一体どいつだ?
夜だろうが昼だろうが、前に前に進みてぇ。
もう自分で目も開いていられなくなったら、そのとき眠ればいいんだ。
なーに、もったいなくて死んでなぞいられるか。やばくなったらサッサと逃げるさ。

わかってくれてるみてぇだな、シエラ、お前でよかった。

何がって?皆まで言わせようったってそうはいかねぇぞ。あとはテメェで考えろ!