有給休暇

 

「神羅ゆうても、前みたいな魔晄屋ちがいますねん。まあ言うたら商社ですか。ヒト、モノ、情報…そんなもんの流れを統括するっちゅーか、全体を見渡せるとこに誰ぞ立ってやなあかんのんですわ。復旧かて思うようにいかへんし…」

「ネオ神羅ですか、そこの社員に?」

「シドさんぐらいになったら、役員ですな」

「…直接聞いてみてくださいね。多分、艇長は自由に空を飛びたいって言うでしょうから」

「自由…にですかぁ」

「ええ、ひたすら自由に飛びたい人です」

「せやけど、シドさんほどの腕前やったら、どこでもええ給料でかかえてくれますやろ。そや、シエラさんもうちにどないです?メカニックゆーても、このごろは質も落ちてしもうて、今日かて冷や汗モンやったんです」

「でしたら、私どもがお安くお手入れしますわよ」

「こらあかん、えらい商売上手やわ」

 

「自由に飛ぶにも、どうしても資金は必要です。今は依頼を受けて、実費と少しの手数料で賄っていますけど」

「うちが出資してもええんです、」

「元手はマテリアを売却したりで今のところは心配ないみたいですよ」

「マテリアゆうたかて、限りがありますやろ、」

「そのうちにお得意様から出資してもらって協同組合みたいにするつもりだそうです」

「村全体が、ですか…」

「ええ、あのハイウィンドはもう共有財産ですから」

「そうですか、バレットさんとことは、どないなってますのん?」

「コレル村の石炭は、ロケット村の輸送船が専属で運んでいます。でも、もうすぐ船を増やすのと、古いのを入れ替える時期が一度に来るので、頭が痛いですけどね」

「それやったら、船籍はうちの会社にしたらどうですか。うちが出資しますさかい、もうけの幾らかを会社に入れてくれたらええんですわ。うちことの依頼も受ける、ロケットポートの物流もする。どこを飛んでどないして儲けようとシドさんの自由ですわ」

「あの人がどう言うかです」

「ええ話やと思いますけどなぁ」

「すいません、せっかく来ていただいたのに、」

「せやけど、シドはんでも病気になるんですなぁ」

「私の言うことを聞かないからです」

「や、そっから先は聞かんとこ。のろけたおされるっちゅう噂ですさかいに」

「何ですか、それ?」

「まあまあ、今日のところはバレットさんと話、詰めますわ。石炭掘るだけで売る先のことをどこまで考えてるかどうか、怪しいモンですわ」

 

 

 

 

いい香りだ、

今何時だろう、

天井を何とはなしに見上げたが、蒼い瞳に膜がかかったような感じがする。

風を感じた。

窓が開いている、カーテンがそよそよと揺らいでいる。頭の中がぶよぶよする。

あぁ、そうだった。
熱だ、ガキじゃあるまいし熱ごときで寝こんじまったんだ

情けねぇ…。

 

静かだ、
こんなまっ昼間からベッドにもぐり込んでちゃ、まるでガッコをずる休みしたみてぇだな。

まだ瞼が重い、体はふわふわする。

 

いつの間にかまた眠ってしまった。

 

 

 

 

暖かな何かに首筋やら頬をなぞられて気がついた。気持ち良かったので夢を見ているのかと思った。

胸元が涼しくなって、暖かな何かが体じゅうを撫ぜまわした。右肩を持ち上げられて、パジャマを半分脱がされたところで目を開けた。

「あら、起こしたみたい、ごめんね」

なんだ、シエラか。

えいやっと身をおこすと、もう片方の腕にひっかかって汗まみれになった
パジャマを脱ぎ捨てた。
まだうつろな意識のまま、ぼーっと部屋を見渡した。

体をふくシエラ。

「はい、バンサイして」

オレ様は子供か?

言われるままバンサイする。
二の腕からわきの下まで、丁寧に清めてくれる。
さっぱりして気分がよくなった。
新しいパジャマを着せられてボタンを止めてもらった。
「ちょっと、口を開けてみて、早く」
顔を上に向けられた。

「さあ、あーん……」
人差し指を入れられた。舌を押されて「おえっ」っとなるがシエラは許してくれない。
「んー、もうちょっと、かな」
それから耳の後ろを触られた。
「いてて……」

「起きられる?全部着替えてね」
ベッドに座ったままで、もぞもぞと着替えた。
シエラがちょっとだけ笑った。
「のどが渇いた、ハラがへった」
「よかった、待っててね」

ベッドのシーツと、着替えたパジャマを抱えてシエラが出ていくと
時計を見た。

夕方だ…

昨日の夜、船を格納庫に入れた後、悪寒が走って、それから…記憶がおぼろげだ。
20時間から爆睡したのか、記録更新だぞ。
そーっとベッドから足を下ろして、立ちあがった。
たまんねぇ、フラフラしやがる。

ダイニングに出た。
「ベッドにいればいいのに、持っていきますよ」
違うよ、個室だ…

 

 

 

なんだかすっきりして、ダイニングの椅子に腰掛けた。
うまいうまい、熱のあとは水分補給が一番だ。
けど、まだ手にうまく力がはいらない。マグカップひとつ満足に持てない、シエラが手を添えた。

「食べられるかしら?」
野菜のポタージュをすすめるシエラ。
ミルク粥も作ってある。

「食うぞ、」
膝にタオルを乗せられた、完全に子供じゃねぇか。

不意にシエラが額に掌をあてがった、もう片方は自分のおでこに。
かと思うと、今度は頬に頬をくっつけてじっとしている。

「な、」

「うーん、まだ熱があるわ、37度5分…かな」

ばかやろう、お前がそんなことするから、熱くなるンだよ。とも言えず、
「そうか、」
「食べたらお薬飲んでくださいね、それからいつまでも起きていないでベッドに入って、ね」

 

シドは20時間だと思ったようだが、正確にはプラス24時間。そう、40度の高熱でドクターに往診までしてもらって、まる二晩、こんこんと眠っていた。
当分更新しないだろう記録だが、本人はまだ気付いてはいない様子である。
チャーター予約を断って、スタッフをやりくりして、リーヴとバレットにも予定を変更してもらって。村では結構な騒ぎだった。

「うへぇ、扁桃腺がまっ赤だよ、こんなになるまで痛かっただろうに」

「でしょ、ちっとも言うことを聞かないんですよ、」

「いい機会だ、休んでもらうしかないでしょう」

「すいません、ドクター。ほんとにもう、しょうがない人だわ」

当のご本人はそんなこととはつゆ知らず、シーツのとりかえられたよい香りのするベッドでまたもや眠ってしまった。

今夜はシエラの徹夜は不要のようだ。

あしたはきっと元気良く起きてくるだろう。