沈黙

 

 

ミッドガルからシドに召還命令が来た

雨の中を失意のうちにハイウィンドを出す
見送りは、傾いたロケットだけ

 

 


「…失敗の原因はエンジンの不調に気付いたキミが『独自の判断で緊急停止スイッチを押した』とあるが?」

太っちょパルマーかと思ったら、新任の名前も知らないヤツだ
いかにも「お勉強は出来ました」ってところだ
カミソリですっと撫ぜたような細い目がいかにもいやらしい

担当官はジョディの出した報告書をチラチラとめくりながら、シドに目をやった。

うわさ通り態度のでかい男だ、
船もロケットも全て神羅の所有だというのを忘れておる
フン、気に食わん
それに、返事もしない

「…以上が会議の決定だが、ロケットの打ち上げ再開については追って知らせる。せいぜい期待していたまえ。
さて、一パイロットが緊急停止ボタンを独断で押したとなると…どのように責任を取るのか?」

ふん、そういうことは裁判の席で最後に聞くもんでぃ。現場も知らずにこの頭でっかちが…。

「半年後の打ち上げのことについて聞きてぇんだが、」
「追って知らせると言ったが…」
「いつ知らせるって?」
「追って…だ」

 

 

シドと入れ替わりに今度はメカニックたちが召還された

閑散としたロケット村に、シドはひとり戻ってきた
彼の帰る場所は、あの家しかなかった

家には誰もいないことを知っていた

ドアが僅かに鳴いた

きちんと片付けられた部屋

ひんやりした空気に、ほんのりラベンダーの香り

灰皿には水が少し

そこにシエラだけがいなかった。

 


ほんの短い間でも、確かにここで2人過ごしたことがかえって堪える。
 
あの後、オレとアイツは話もできなかったのに、どんな顔をしてこの部屋を片付けたのだろう

 

会いてぇ

会って話さないことには
このままでは

終われねぇ

 

 

 

 

 

ハイウィンドの艇長としての仕事がシドを追いたてた。
西へ東へ
上層部の命令で、何日も飛び回らされた。

自分の意思で飛びたい

自由に飛びたい

広い空を飛びたい

 

 

打ち上げ再開の知らせは入らない。
かわりに、宇宙開発縮小の方針が決まったとの書類をジュノンで受取った。うすうす感じてはいたが、実際に文書にされてしまうとやはり厳しい。
もう一通の辞令が追い討ちをかける

『飛空艇ハイウィンドの艇長を解任する』

シドは飛空艇を取り上げられた

 

 

 

 

ロケットはまだ立っていた
すこし傾いていたが
まだそこに立っていた

デイバックを右肩にシドが村に戻ってきた。なんだか人の気配がする

 

「やあ、シドじゃないか」
「おかえり!艇長」

メカニックどもが顔を揃えている
「俺たちはここに足止めさ」
「この村は居心地がよくってさ」

「あんたが帰らないんで静かだったが…」
今は待ちのときなのさ、
待とうよ、シド。

中止じゃないんだ。
俺たちがロケットの世話をするからさ、
「ジョディよ、それで…」
「家に行ってみなよ、いつまでも荷物かついで立ってないで。みんな、整備に行くぞ〜〜」

 

 

自分の家なのに緊張した
もしかしたら、
いや、そんなに都合のいいことが
あるものか

ドアを開けると紅茶の香りがした
かすかにラベンダー

誰もいない
「……?……」

ふいに中庭に出るドアが開いた
白いシーツの山が入ってきた

「あ!……」

初めて部屋を掃除されたときと同じだ

あまりに唐突だったので
2人とも言葉を探すこともせずに
見つめあってしまった

「ごめんなさい、…ちょっと通らせてください」
両手いっぱいに清潔な香りのするシーツやらを抱えて、あのときと同じセリフだった

何か言わないと…

程なく、硬い表情でシエラが寝室から出てきた。
「あの、艇長…おかえりなさい」

「…………」

「昨日、戻ってきたんです、私達。でも雨だったでしょ、だから今日、ね」

「…………」

「お茶にしませんか、何となく艇長が帰ってきそうな気がしたんです」

シドのすきなダージリンのストレートティ
すすめられてカップをとった。

気まずい……

シエラも椅子に座った

「あの……」「お、おう…」
思わず顔を見合わせた

「ど、どうぞ」
「なんだ、その…」

気まずい……

「…体の、具合は……」
言いかけて止めた、そんなことを言うつもりじゃなかった。

「…すいません、ご心配をおかけして。おかげでこのとおり」

笑顔がひきつって、顔をそらせてしまった。

気まずい沈黙……

「おい、」
「…はい」
「ずっと居ろよ、…ここに」

明かに困惑した表情だった

「聞いておきたいこともあるし…」

おびえたようにみえた

「言っておきたいこともある…」

そんなことは口実だ。
そうでも言わねぇと、こいつは遠くへ行ってしまいそうだ

「いいな……」

シエラは返事をせず、うつむいた

シドは大きくひとつ溜息をついた
2人の目が合った
思わず手を握ろうとするとシエラは手を引っ込めて席を立った。
椅子が音を立てて倒れた
構わず細い腰をつかまえて引き寄せる
強引に口づけすると力を込めて抱き締めた
必死でシドの厚い胸を押し戻そうとする。
身をよじって逃れようとするシエラに腹が立った

抵抗するな、
オレ様から逃げるな!
この、オレ様から…

床におし倒して両肩を押さえつけた。

諦めたような瞳にまっすぐ見上げられて自分の顔が映った

 

年端もいかねぇガキでもあるまいし
オレは一体何をやってんだ

 

首のうしろに手を回してシエラを抱き起こした
乱れた服を直してやって
うすい肩に額をそっと預けた。
なだらかな胸のふくらみを頬で感じた
「シド…」
細い腕が頭を包み込む。

鼓動がきこえる
あたたかい

 

「悪かった…」
首を横に振る

「ずっと…いてくれ」

返事をしない
不安になって顔を上げた

「いいの…?」

今度はシドがうなずいた

「怒ってない…?」

ばっと飛びのいて背中を向けると、あぐらをかいた

「怒ってるよ!あんな無茶……もうするな」
「…………はい」
「おう、整備だ!行ってくる」

 

 

まったく、シエラのおかげでとんだ災難だ
打ち上げは失敗するわ、飛空艇は取り上げられるわ
若社長が来るって、それだけが今のオレ様の……