決闘だ!

 

 

 ロケット打ち上げパイロット、シド・ハイウィンドが試作の続くロケット村に降り立った。自慢の飛空艇を見せびらかしに、そしてメカニックたちとの顔つなぎのつもりだった。
風を切り裂き着陸すると、仕事の手を止めた連中が寄ってきた。
オレ様の船、そしてオレ様の夢、

ここはオレ様にとって約束の地になるだろうか。いや、してみせる。シド・ハイウィンド、決意の春。

 

 

1日の仕事が終わって、シドを囲んで宴会となった。この日、シドは1人のメカニックと知り合った。

 

「チョット待ってください、私そんなのいやです!私は景品?」
「いーじゃねーか、シエラ。オレたちの勝負で勝った方がアンタと付き合う権利をモノにする。女冥利に尽きるってもんだぜ」
「シド!そんなの失礼だと思わないの?」
「うるせえ、三角関係なんざ、面倒くさくってしょうがねぇんだ!きっちりケリつけとくのがお互いのためってもんよ」
「チーフ、何がどうなってるの?」

乗りつけた飛空艇は、プレジデント神羅のためにセッティングが変更されていた。それを見抜いたシエラをシドが気に入って、シエラもずっと憧れていた人と親しくなれた。
自分にとっては妹の様のようなものだから、あんたがシエラを大切に思ってくれるなら自分も嬉しい。…そういったことを話したら、シドに絡まれた。

「そ〜んなこと言って、やい、ジョディ。いいトシして、妹だなんて、通らねぇぜ。片思いなんてコドモのするもんだ」

お前、シエラが好きだろうが、そう言われて、キライではないと、返事をしたら勝負だぞ、ということになってしまった。
「すまない、そういうつもりじゃなかったんだが、」

 憧れのシド・ハイウィンドと親しくなれたのは夢のようで嬉しい、でも「オレ様のものになれ」と言われて素直に「はい」って言うと思われたのか。そんな軽い女に見られたのかと思うと、悔しいやら恥かしいやらで、シエラは顔から火が出るようだった。
ジョディには悪いけれど、シドとスピード勝負して勝つとは思えなかった。

「心配すんなって。オレ様がさくっと勝つから、安心してそこにすわって待ってろい!」

この高慢な態度、許せない。

 飛空艇乗りとしては最高かもしれないけど、自分がこんな男に憧れていたのかと思うと、哀しくなってきた。
「何が安心よ、私はいやですから」
「こーゆーことは、明るくいかなくちゃいけねぇんだ。村じゅうのみんなが文句ないように、ちゃ〜んと白黒つけとくんだよ、わかったか!」

 わかってたまるもんですか、シエラはプライドをいたく傷つけられた。

「いいわ、そこまで自信があるんなら…シド、私と勝負して。私に用があるんでしょ、だったらチーフと勝負するなんてお門違いよ。あなたが勝ったら、私、あなたの何にでもなるわ」

ジョディは寒気がした。彼はシエラの腕前を恐ろしいほど知っている。
シエラは本気だし、多分負けないだろう。
自分はどうしてこんな恐ろしい部下を預かったのだろう、どうしてシエラを好きになってしまったのだろう、今一番可哀想なのは自分だ。

「オレ様と勝負だとぉ?勝てっこねぇよ、それとも何か?どうしてもオレ様と付き合いたいってか!なら、勝負なんか無しで今すぐゴーだぜ」

「あらぁ?私が勝ったときの条件は、聞かないの」

 ゴキゲンで笑っていたシドが眉間にしわを1本寄せた。

「あんだと、こら。オレ様を誰だと思ってんだ!」

 ああ、もうだめだ、シエラ、止めてくれ。

「そうよね、女と勝負して負けたとなると、伝説のパイロットも看板下ろさなきゃ、ね」

 シドはシエラの挑発にきっちり乗ってしまった。

「このアマぁ!!!!!上等だ!表ぇ出ろ!」

シドもまた地獄を見るだろう、しかたない、自分が言い出したことだ。

 

 

 

「シエラ。こんなの止めろよ、俺が謝ってやるから」
フライトスーツのシエラが、ゴーグルをつけながら溜息をついた。
「仕方ないでしょ、成り行きだもの」
「成り行きって、そんな…もしものことがあったら、オヤジさん泣くぞ」
「まあ、チーフは泣いてくださらないの?」
ジョディの気持ちには多分気がついていないのだろう。
「相変わらず心にもないことを」
こうなってはもう、無事を祈るだけしか、ジョディには出来ない。
「…シエラ、…気をつけて飛ぶんだぞ」

シエラをテストに出すときはいつもそう声をかけた

『気をつけて飛ぶんだぞ』

「大丈夫です、今日はテストじゃないから」
にかっと笑った。
「思いっきり飛べますよ」
それが一番コワイ……もうジョディは何も言えなかった。

 

 妹のように可愛いシエラ、
新人パイロットとして俺の前に現れたあの日が忘れられない。シド・ハイウィンドに憧れる跳ねっかえりだけあって、テストを1度だって怖がらなかった。
飛空艇の開発に参加できて、お前が大喜びしたのが昨日のようだ。ところが、完成間近というのに担当を外されたときのお前の寂しそうな顔、俺は何もしてやれなかった、すまなかったね。
だけどロケット担当になって、ほら、良かったじゃないか、こうして……なんで勝負なんだ?

 

 

「おうおう、謝るんなら今のうちだぜ、」
「あなたこそ、もうお祈りは済んだのかしら?」
「へ、大したタンカだ。始めるぞ」

タイニー・ブロンコが2機、用意された。
まったく同じ条件で、スピード勝負だ。

先を行ったのはシドだった。
恐るべき勢いで加速していく、さすが伝説のパイロットだ。ところがシエラはそのシドに、ぴたりとついていく。
加速すれば同じように貼りついてきた。横に並んでこずに、すぐうしろを取られて、シドの顔が歪んだ。何度かわしてもくっついてくる、シドは歯軋りをした。

すごいプレッシャーだ。

実戦でもこんな乗り手にはお目にかかったことがねぇ、まさか弾は積んでねぇだろうな。

脂汗が滴り落ちた。

「このヤロウ、飛行気乗りの一番嫌がる乗り方しやがる…」
ゴーグルで隠れて見えないが、あの女、笑ってるに違いねぇ。
女のくせに後ろを取るたぁ、何てヤツだ。
このシドに寒気を起こさせるとは…

ゴールが迫って、つぅっとシエラ艇が並びかかった。
一気に勝負に来た、とシドは覚悟した。
もはやレッドゾーンに目盛がない。

わずかにシエラ艇が出た。
これまでか……ちぃぃぃーーっ、
このオレ様が!
よりによって…くうっ、勝てねぇ。

ところが、である。

『いけない、シド。もう加速しちゃダメ!』
シエラの声が飛びこんできた。
『エンジン音がおかしい!まわし過ぎよ、そのままで飛んで!』
そんな筈ない、シドは忠告を無視しようとした。
途端にブレがきた。コントロールがきかない、いかんこれでは!
 …………
「ゴーーーーーール」
あっという間に、2艇がゴールラインを通過した。
見物の人たちは、シドの逃げ切りか、シエラがさしたか、と、大興奮だ。
今でも語り草だ。勝負の行方は、シエラのさしが有力だが、確証はない。

 

 

 

 

 

「私の負けです。シド、私…」
「おい、あのときなんで話しかけたんだ」
「それは、その…」

シドが乗ったタイニー・ブロンコ号のエンジン部分を開いて、2人はメンテナンスをはじめた。異常音がしたというシエラの指摘で、伝道部分を特に念入りにばらし始めた。

「おめぇ、わざとじゃねぇだろうな」
「ち、違います。わざとだったら、教えてからゴール前で私がさせてました!」
「フン、勝った気がしねえ。この勝負、引き分けだ」
「それじゃ誰も納得しないわ、勝ちは勝ちよ。…見てください、ここ」

細いシリンダーの、僅かな破損を見つけたとシエラが示した。

「どれ?……あちゃ〜〜こりゃあダメだ」
「もうチョットで、ボン!!」
「落っこちてるな、」
「ええ、多分」

2人はごそごそと、修理を始めた。

「おめぇ、大した女だな」
作業の手は止めない。

「そうですか?」
こちらも手は止めない。

「よし、今日のところはこれぐらいにして、」
「ええ、明日にでも部品を換えれば…!」
不意に腕をつかまれてシエラは、身を固くした。

ぎゅ〜っと抱きしめられた。

心臓が「ここにある」と、はっきりわかるほどドキドキした。
「シド…」
声がかすれてしまった。

伝説のパイロットは腕を緩めて、シエラの顔をのぞき込んだ。
「勝ったからじゃ、ねぇんだ…」

そっと唇を重ねた。