発熱

〜まなざし〜

 

「バレット……寒い…」
腕の中で小鳥のように震えて、ティファが訴えた。泣きつかれて眠ってしまったのを、そのまま抱いていたのだが。頬から首筋に手を当てると、熱い。
「なんだ、熱があるぞ」

マリンを育てた経験があるから知っているんだ
「疲れたんだ、ちゃんとベッドで眠ればじきに直るさ」
軽々とティファを抱えて、診療所に連れていった

 

 

「やはりお疲れのご様子ですな、大丈夫ですよすぐによくなります」
あっさりとドクターが言った。

「お大事にね」
ナースが薬や何かを置いて出ていった。

「何も考えずに眠るんだぞ、いいな」

こんな優しい顔のバレットなんて見たことない
「うん」
「ティファはいい子だからな」

穏やかな顔のバレットがとてもオトナにみえた。私はどうせマリンと同じぐらいにしか思ってもらえないんだろうな、

つまらない…

「ね、バレット、…手、」
つないでくれる?そっと差し出した
「ん、どうした」
何のためらいもなく大きな左手が包みこんだ

「さあ、いい子だ。目ぇつぶって」
こくりとうなずくと、目を閉じた

薬のせいか、程なくティファは眠ってしまった。
つないでいた手をそっとしまい、乱れた前髪を直してやった
頬が赤い、熱のせいだ。

 

 

小さいノックの音がして、シドがのぞいた
「お姫様はお熱だって?」

ベッドサイドから立ち上がって、バレットは壁際の椅子に座りなおした。
「今ねむったところだ。静かにしろよ」

何を遠慮しているのか、まだドアからのぞくばかりのシド
「そんなとこに突っ立ってないで入ればいいじゃないか」
「じゃ、ちょっとだけ」
暖かい飲み物の乗ったトレイをさし出した

「シエラからだ」
「おお、ありがたい」

男2人が若い娘の看病というのも似合わないような、変な感じだ。でも2人ともそういうことは言わない。
「薬が効いているみたいだ、よく眠っているよ」
「看病が板についているな、」
差し入れのコーヒーを一口飲むと、穏やかな顔になった。

「…マリンはよく熱を出す子だった」

「アバランチのリーダーの意外な素顔だな」
マグカップに手を伸ばしてシドも小さい声で話す。相性の悪い2人といわれるが、必ずしもそうとも限らない。静かに話すことだってできるのだ。

「いろいろと、荷物をしょって疲れたんだろう。全部ひとりで担いじまって、重たかっただろうよ」
「『星を救う旅』だったからなぁ、オレ様でも信じられねぇことばかりだった」
タバコがないので手持ち無沙汰のシドは仕方がないからマグカップをもてあそぶ

バレットはふと立ちあがった

ベッドに歩み寄ると、固く絞ったタオルで、眠るティファの汗をふき取ってやった。そして毛布を直すと、何事もなかったかのように壁際の椅子に戻ってきた。

シドは自分がいようといまいと何一つ変わらなかったであろう一連の行為を、映画の一シーンでも見るような気持ちで眺めていた。

手馴れた看病、それだけではない深い愛情が溢れてくる。長い旅を通してこの男は、ティファを見守り大切にしてきた。
自分の気持ちは隠して。
いや、まだ自分の気持ちに気付いていないのかもしれない。
こんな愛のカタチもあるんだ、シドはそう思った。

 

 

「それにしても、あんたらいつから夫婦やってたんだ?」
ティファを見つめたままで腕を組んだバレットが尋ねた。

「そんなんじゃねぇよ…」
こちらはテーブルに頬杖をついて答えた。
「ほお〜、んじゃシエラさんはありがたく頂戴するとしよう」
ぷっと笑ってしまった

この男は心にもないことをマア口走るものだと、感心してしまったのである。

「よせやい、お姫様が泣くぜ」
慌てて立ち上がったので、テーブルを蹴りそうになってしまった

自分の立てた物音に自分で驚いた
「静かにしろっていったのはお前だろうが。お姫様が起きちまうぜ」
テーブルを直しながらバレットはシドの前に立った。

「なんでティファが?泣くんだよ」
「いいんじゃねぇか、自分に正直にってぇのはよ」

ひねくれ者2人が一体何を言うやら、である。

とぼけた顔でバレットは椅子にすわりなおした。
『オレの女房はミーナだけだ』
自分に言い聞かせるように独白いた

「…レット…」

2人ともはっとしてベッドを見た。
「お姫様がお呼びだぞ」
今度はシドがちょっとマジメに言った。

そうだったらいいじゃねえかと思ってはいたけれど、目の前で『ひょうたんから駒』ではやっぱりビックリだ。

「あんたは熱のある子供の看病なぞしたことがないからわからねぇんだよ」

そう言われるといい返せない

「熱のあるときは、何だか口走るものさ」
そう言いつつ、ティファの顔をそっとのぞいている。

コノヤロウ、はぐらかしたな。
まあいいや、夜は長かろう。オレ様だって看病ぐらいするんだ。鈍感オヤジの相手ばかりもしてらんねぇ。

「マリンはシエラと一緒にいい子でネンネしてっから、今日のところはいてやれよ」
「おおすまねぇ。シエラさんによろしく言っといてくれ」

ふうむ、父親の顔だな

 

 

静かにドアを閉めると、廊下にクラウドが立っていた。
「シド、聞いたんだ。ティファが……」
さてと面白いことになってきたぞ、オレ様は見物だ。ちょいとたきつけてやろう。

すごい熱を出してうなされてたぜ」
「それで、ティファは?」

はなっから勝負が見えてるのもつまらねぇ

「おめぇの名前を呼んでたぜ、どこで何してたんでぃ?」
まあ、こんぐれぇにしておくか。

 

 

「まあ、そんな無責任なこと言って帰ってきたんですか」

シエラに怒られた

いいじゃねぇか、面白くなったんだから。

「知りませんからね、ややこしいことになっても」

なーに心配いらねぇ、ノーヒットノーランが完封試合になる程度の違いでしかねぇんだ。

 

 

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