発熱

〜プロローグ〜

 

 

賑やかな人ごみを避けて、気がつけばティファはハイウィンド格納庫にいた。

あの船に向かって、シスターレイの先端から飛んだんだ
あの船に乗ってミディールにたどり着いて
そしてクラウドを見つけ出したんだ
クラウドの本当を一緒に見つけた
私の本当もみつけたの

北の大空洞で、クラウドの手をつかまえたのに…
星を救ったのに、私、なんで落ち込むんだろ
自信、なくしちゃうな

クラウドの心の中はエアリスでいっぱい…

やだ、涙でてきちゃった
誰も見てないからいいや、泣いちゃお
久しぶり、泣くなんて

 

「……ですか、出てきてしまって。皆さんお待ちかねなのに」

誰かな、あ、シドとシエラさんだ。どうしてこんなトコに…別に隠れなくてもいいんだけど、こっちむいて座ろ。

「すまねぇ、気がついたばかりだってぇのに連れ出して」

そうだったんだ

まる2日、目を覚まさないってドクターが心配してた。
それでシドがつきっきりでいたって。私たちに「おかえり」を言いに、ロビーに来てくれたんだ。気がついてすぐだから、足なんかもふらついてたもんね。

「そんな…あなたこそ、お疲れでしょうに」

わ、あんなにしっかり抱きかかえてる

「ティファさん、いつのまにかいなくなりましたね」
「ちいとばかり、辛かったろうよ。おめぇの話きいてさぁ、クラウドはまだガキだから、あんなんだしな」
「まだお若いですから、2人とも」

寄り添っちゃって、うらやましい

「ひとのこたぁ、ほっとけ。どうなったって2人の問題なんだ」
「でも、…心配だわ」
「なるようにしかなんねぇ、さ」

シド、言ってくれるわね

「それより……」
「ええ、早く良くなって、船の修理をします」
「船なんざ誰だって扱えるよ、おめぇの体が先だ」
「……ありがとう」

もうやだ、逃げたいよ

「あん?ティファじゃねぇか。こんなところで何してるんだ」
ひっ、見つかった!?

「いえ!あの!そ、そのっ!」
盗み聞きじゃないの、偶然なんだから

抱きかかえられていたシドの腕をゆらりとはなれると、シエラはティファのもとに2歩、3歩危なげな足取りで近寄った。つられてシドも歩み寄った。

「ティファさん、クラウドさんのこと好き?」
「えっ?」
「彼はまだ子どもみたいなところがあるから、あなた、ゆっくり彼とつきあってあげればどうかしら。ヒソヒソ (男の人はみんな子どもよ) きっとあなたのことわかってくれるから」

そんなに優しく言われたら、また涙がでちゃう
「シエラさん、幸せだからそんなこと…」

自分の中で何かが崩れていくのがわかった
押し殺してきた寂しさが
関を切ったように溢れかえって、もう止まらない

いい、もういい。

「大丈夫よ、我慢しなくてもいいから。いっぱい泣いたらいいのよ」
「ティファよう、何もかも洗い流しちまえばすっきりするぜ」
シエラは子どものように泣くティファを抱き寄せた。

タバコに火をつけたシドは2人に背中を向けた
不覚にも涙が一粒こぼれた
似合わねぇなと苦笑した

吸殻を踏んでもう1本、タバコをくわえたとき、やってくる人影に気がついた。

「さてと、シエラ。オレたちは退散だ」
顔をあげるとシエラもうなずいて、ティファの顔を覗きこんだ。
「あなたのこと、心配している人、たくさんいるからね。独りぼっちじゃないからね」

「行こうか、シエラ」
いつもそうしているように手を差しのべるシド

「はい」
いつもそうしてもらっているように従うシエラ
「後はよろしくたのんだぜ」
「お、おう」
まだ泣きじゃくるティファをおいて、2人は格納庫から出ていった

 

 

「しっかりしろよ、って言いたいが」
どかっとあぐらをかいたバレットは頭をかいた
「なんで?…バレット」
「なんでかな」

ハイウィンドを見上げて、ただ黙っている
離れてすわっているのに、体温が伝わってきた

そのうち、バレットは喋り始めた

「あの時は心配したぜ」
私?いつのことだろう、心配させたなんて

「ガスルームさ。もうダメだって観念したさ」
そう、ね
あの時はさすがにすごかったわね

「大砲の先からダイブすりゃ、ロープはつかみ損ねるし、意外とドジなんだよな」

なんかハラがたつわね、聞こえてるんだから

「ティファが落ち込むと、オレはどうしていいのかわからなくてよ『いつからそんな弱い女になったんだ』なんて。言うしかなかったんだよな」

「バレット……」
思わず顔を上げて、さっきからぶつぶつ聞こえる独り言に応えてしまった。

「人間、独りぼっちはいけねぇぜ。物事を悪いほうに思いつめちまう。 頼りにならねぇかもしれねえけどよ、横に座って話ぐらい聞いてやれるからよ」

愛する妻をひとり逝かせてしまった男の言葉は、やはり重い。

「オレは元気なティファがいいな、こっちまで元気になるしよ」
まだべそをかいているティファの頬をちょこんとつっついた。

次の瞬間、ふわありと風がおきてバレットの腕の中にティファが飛び込んできた

「お、おい!」

「私、元気になるね。バレットが喜ぶから」
「そ、そうか!」
「ね、バレット、元気になったら誉めてくれる?」

吸い込まれるような大きな茶色の瞳にどぎまぎしながら、この娘の健気さを痛々しく思った。

「おう、誉めてやるぞ。でも、急がなくてもいいからよ」
「うん、そうする。…だけど今は」

もう少し泣かせて、だな。泣け、泣け。
オレの胸でよかったら、泣け。

 

胸の中にうずもれてしまうのではないかと心配するほど、ティファは小さかった。バトルとなるとあれほど闘志をたぎらせて。味方ながら恐ろしくなるほどなのに……

 

 しかし困った。

ティファのやつ、泣きつかれて眠ってしまいやがった。
まるでマリンだ
しょうがねぇ、しばらく抱いていてやるか

思い出すな、7番街をよ

ティファ、お前の作る料理は絶品だったな。男やもめのオレなんか、どれだけ気持ちが安らいだかわからねえマリンとも仲良くしてくれたし。まるで家族のようだったな

お前とは
アバランチのメンバーとしてしか
出会えなかったのだろうか…いまさらそんなこと、どうでもいいか

安心しきってるんだな、今までずっと突っ張ってきたもんな。ふん、オレが何にもしねぇって信じてるな…しねえよ、何にも。

でもよ、このぬくもりっていうのか?マリンとはまた違うんだよな

ぬくもり…、これがあるから人は生きていけるのかもしれねぇな

豊かな黒髪、触れるぐらいは許してくれ

それよりクラウドのやつめ、ティファがいなくなったのに探しにも来ねぇのか?まだまだガキだな、痛い目にあわねぇとわからねぇんだろう…エアリスを忘れられねぇんだろうか…面倒なことにならなきゃいいが。

 

人々の行き交うざわめきは遠く、腕の中の小さな寝息だけが耳に優しかった。

 

つぎへ