「約束」                

 

四翼のプロペラが回り始めました。上昇です。激しい風が吹き荒れて「星を救う船」は力強く舞いあがります。

「シエラ、あのまま艇長を行かせていいのか?!」
「骨折していないみたいだし、大丈夫ですよ、多分」
「げーっ、シエラ、お前きびしいな〜」
夜が明ける、メテオがうなりを上げてのしかかってくる。

デッキにはバレットさん。
腕を水平に保つと、斉射。
バレットさん、怒ってる?

機影はまだ見えているのに、識別信号はみるみるかすれてしまった。
当然、無線も役には立たない。メテオのせいだ。あとはもう祈るしかない。決戦はもうすぐ、星を救う船の出発を見送る私。

 

 

 

 

ロケット村には星を救う船を支援するための格納庫が準備された。

メテオは7日後には星に激突するらしい。
この村もそんなウワサで逃げ出す人、ヤケになってしまった人、泣く人、誰も本当のところがわからないのだから、困惑するばかり。しかし私たちが信じなければ、私たちが希望を捨ててしまったら「星を救う船」は帰るところがなくなってしまう。

この格納庫はハイウィンドが無事に帰るための希望なのだ。…信じてそして待つことを私は約束と呼びたい…昔、そんな歌を歌ったことがある。

 

 

それから3日してシドが村に戻ってきて
「これを預かっておいてくれ」
それだけ言うとまたハイウィンドに乗って出かけてしまった。
「あの、艇長。整備を!」
船体は遠目にみても、何度も体当たりをしたらしい跡がある。
「美人さん」の頬も泥んこ、どこをどう飛んだら…。
「な〜に、スグ帰っからよ!この村によ」
にっと笑ったシドは、珍しくシエラをまっすぐ見つめた。
「だいたい、そういうことはヒマなときに言うもんだ、シエラはよ」
青い瞳が言葉とうらはらに思いつめていた。

 

本当にメテオが止まるのか?

シエラに残されたのはシドの言葉、
「スグ帰っからよ!この村によ」
それから掌に預かった……

 

ベッドで眠る気にはなれなかった。
昼間はいつハイウィンドが戻ってもいいようにあれやこれや準備をしたりで、結構慌しくして、体は疲れているはずなのに。
今にも船が戻ってくるようで、気がつくといつも格納庫でまんじりともせずに朝を迎えていた。

無線が役に立たなくなっていた。
うなりをあげて空を圧倒するメテオのせいで、電波状態は最悪。
もう、ただ待つしか、信じるしかないのだ。

 

 

 

その夜、シエラは夢を見た気がした。
今まで聞いたことのない、もがき苦しむような音を聞いた。

「星の悲鳴よ」
女の人の声。

「メテオを押し戻そうとして、悲鳴をあげているの」
振り返ると女の人がお祈りをしていた。

「もっと力が要るわ、あなたも祈って!」
言われるままに両手を胸の前に合わせる。
「あなた、聞こえる?彼の声」
「彼?」
「呼んでいるわよ、彼。あなたの名前を、何度も」
「わたし?」
「『きっと守ってやっからよ』って。フフ、本当はあなたが彼を守っているのにね」
「誰?あなた」
「……うらやましい。さ、あと一息よ、一緒に唱えてくれる!」

はっと目がさめたとき、口をついて祈りの言葉がこぼれ出た。

「ほ、……ホシヨワレニチカラヲ…………」

 

 

それから2日して、ハイウィンドはこの格納庫に収まった。    
無事に帰還した勇姿をシエラは出迎えることができなかった。

 

 

 

光がまぶしくて気がついた。
「おい…」
暖かなものが頬を包みこんだ。

「しっかりしろぃ、……シエラ」
声が聞こえる、私を呼んでいる。

「……あ、あの…」
随分長い間眠っていたらしい。もやがだんだん晴れてくる感じがした。

「…シエラ……」
穏やかな青空、違う。あの時の思いつめた瞳。
「……?……ていちょう!」  
「オレ様が無事に帰ってきたっていうのに、ぼんやり眠ってんじゃねぇよ!ハイウィンドはボロボロだぜ」

艇長の一喝でしっかり目が開いた。

「整備だぞ!と、言いたいところだが、今は忘れろ。ドクターがいいって言うまでな」
「あの女の人は?」
「女ぁ?お前のそばにはオレ様のほかは誰もいないぜ」
「え?艇長、私どれぐらい眠っていたの?そう、メテオは?」

「…メテオはぶっ飛ばしたよ。お前が眠っていたのはまる2日だな。
お、おめぇの体が氷みたく冷たくてよ、ドクターも首をかしげたっきりさ。村の連中の話じゃあ、ホーリーがメテオを包んだとき、格納庫からも光が溢れ出たんだと。何事かとかけつけたらシエラ、お前ぇの体も光に包まれて、それから、倒れてあっという間に冷たくなっちまったってさ」

「わたし、お祈りをしたの、女の人に『力を貸して』って言われて」
「お祈りだぁ〜?それと、白い光と、どんな関係があるんだ?」
「ええ、でも……」

「ま、とにかくよ、オレ様は帰ってきたからよ。ロケット村によ。……シエラ、お前のところによ」
「! あ、艇長、その、預かってた、これ……」
「おっ、すまねぇ。シエラ、起きられるか」

助けおこすシドの顔がシエラの視界にいっぱいになった。いつもよりのびた不精ヒゲが、戦いの凄まじさを物語る。
「ごめんなさい、お疲れでしょうに、こんな……」
シドの前で涙を見せたのは、実はこれが初めてだった。

そのままシドは太い腕でシエラをしっかり抱いた。生きている証しに力強い胸の鼓動が伝わる。懐かしい暖かさに包まれて、お互いのわだかまりが解けていくようだ。

私は意地を張っていたと、シエラは思い知らされた。

オレ様の大事な女房だと、シドは確信した。

「……シド、おかえりなさい」
「約束だからな。……そうだそうだ、これだ!」
いまさっき返した小さな皮の袋から、シドが取り出したのは淡いグリーンの石のついたプラチナの指輪だった。

同じのがもう一つ

「一つはお前のだ、ほれ、」
まだ冷たい左手をとると、ぎこちなく薬指につけようとした。
「あ、」
不意をつかれてシエラは目をまるくした。
「ン、いやか?」
首を横に振ると、
「受け取ってくれ」
答えの代わりに厚い胸に身を預けた。

心地よい重みを感じながら、シドはもう一つをながめた。

「これはよう、心配性のオフクロがパイロット試験の前に、試験どころか空からおっこちねぇようにって持たせてくれたものなんだ」
「そんな大切なものを、ダメよ。おっこちますよ」
「や〜っぱりシエラだなぁ、はっはっはっはっ。決戦には持っていかなかったんだぜ」
「でも、この先トラブルがないとも……」
「大〜丈夫だって!オレ様にはシエラの整備があればコワイもんはな〜んにもないんだから。頼りにしてるぜ、シエラ」
「…………」
「こらっ、だまるなぃ」