夜明けまで

出発まで2時間、村は決戦を控えた船への支援で活気に溢れていた。

初めて宇宙を飛んだ男、シド・ハイウィンドを囲んですごい熱気だ。
「さすがだな、シド!とうとう夢を果たすことができたじゃないか」
「艇長おめでとうございます、無事に帰れてボクたちもうれしいです!」

称賛の声に包まれて、シドは満足げにうなずいている。気持ちが高まっているせいだろうか、先ほどより顔色も随分よくなった。シエラの心配をよそに、足の痛いのはガマンしてしまいそうだ。

夜明け前には飛びたてるだろう。

 

 

「きれいな船ですね……」

魔晄を浴びた、碧の瞳を持つ若者が見る先に全長237メートルの星を救う船は、黒々としたシルエットを横たえて補給を受けていた。ところどころをライトに照らされ、人が忙しく働いているのがチカチカして見えた。

バレットのギミックを修理して、エンジン担当のクルーとの最終チェックも済ませた。魔晄エネルギーの補充をオペレートしているシエラのそばでいつのまにか彼も船を眺めていた。

「本当の自分を取り戻したんですってね」
「ああ、あ、はい。……自分の弱いところは隠したかったみたいです」
「とくに、好きな人には、ね」
「……男ならみんなそうです……多分」
「ふふ、そうかもね」
船を見つめていた若者はチラっとこちらを見た。
「シドは……、あんなに自信に溢れているけれど……」
笑うとまだあどけなさが残る、男の子。
「俺もいつかは、あんなふうになれるのかな?」
「まあ!『オレ様にまかせろ』ってふんばるの?」
ヘビースモーカーにはならないでくださいね。
照れを隠すようにうつむいたうなじから肩のラインは、まだ薄い。大人になるほんのちょっと前の、ガラスのような少年。

「強い意思で自分を、自分を見失わないようになりたいんです」
「……そうなの。大変だったのね。悩んだり、迷ったり、弱気になったり、 人間なんだから、当たり前だと思うわ。」

風が戻ってきた。美しい金髪が揺らいだ。

「人間……なんだ、」
遠くを見る彼の目、きれい。
「クラウドさん。ホラ、お迎えよ」
走って来る人に見せるのは『男』の顔。

 

「ここにいたの、早く来て!大変なんだから」
アクシデントか、いや補給は順調だ。
「どうしたんだ、ティファ。何があったんだ?」
「大変なの!あっ、シエラさん。」
すごくイヤな予感。

 

 

 

「何度いったらわかるんだ!アンタが頼めないならオレが説明してくるって言ってるんだ」
「バカ言うんじゃねぇ!!ちゃんと立派なクルーが揃ってるんでぃ!!これで十分なんだよっ」

予感が的中した。

「そういう問題じゃないだろうが!!」
「そういう問題でなきゃ、何っだってんだ!!?」

息せき切って3人がかけつけると、バレットとシドが今にもつかみかからんばかりに睨み合ってる。
取り巻いているクルー達がヒソヒソ話す。
「相当、相性が悪いですね、あの2人」
「いや、バレットさんには何か考えがありそうですよ」
「も、もしかしたら、ナントカのさやあてってやつですか……」
「おいコラ、お前。聞こえてるぞ」
シドとバレットにギロリとにらまれた可哀そうなクルー、思わずうつむいてしまう。

「一体何をもめてるの?」
こちらに気付いた一人が走ってきて、コワイ二人に気取られないようにコソコソ話した。
「どこにいたんですか、シエラさん。あなたのことで二人がもめているんですよ、ナントカしてくださいっ」
「ナントカって、何よ?」
「バレットさんが、シエラさんをクルーとして同行してもらったらどうかって、艇長に言い出したんです。そしたら艇長が……」
「『バカ言うねぇ』……」
「そ、そうです。さすがですね」
「困ったわね、もうすぐ出発なのに」
「先が思いやられます」

建設的ではないとわかっていても、溜息が出た。

「だいたい、素直じゃねぇんだ、シド!きさまにはわかんねぇのかよ?オレの気持ちがよ!」
「てめえみたいなオヤジの一体何をわかれってんだ、はん!」

この2人は子供だ。シエラはげんなりした。

「どうしたんですか、何があったんですか?」
「シ、シエラ!……てめぇには関係のねえことだ。補給が済んだらさっさと船から下りろぃ」
何を慌てているのか、シエラに知れたらまずいことに違いない。

「下りますよ、でも何なの。大声で言い合ったりして。クルー達が心配しています」
「ほれ、聞いたか。シエラは下りるって言ってるんだ。それでいいんだよ」
「やい、シド!シエラさんは力になってくれるって、何回言えばわかるんだ!それに……」
「だまりやがれ!!!…………今度の戦いは帰ってこられるかどうか保証がないんだ……そんなところに何もわざわざ……コイツまで連れていく必要はないんだよ」

血が逆流すると、こんな風に感じるのかもしれない。このままではシドが生きて帰って来ない気がして自分でも驚くようなセリフが勝手に口をついて出た。
「まっ、艇長!帰ってこられないなんて、弱気ですね。まだ足が痛いんですか?」

シエラにそんな言われ方するとは意外だと、顔にかいてあった。

「痛いに決まってるだろうが!シエラ、てめぇ予想以上に冷てぇ女だな!」

なによ、人の気も知らないで、私だって怒るんだから!
「私の知ってるシド・ハイウィンドは、いつでも自信満々で、前向きで、弱音なんか吐かないわ。それに出撃前だというのに、 クルーを困らせるようなケンカするような人じゃないわ」

「………………」

堅く握り締めた拳が震えた。

「……シエラさん、いいんだな」

バレットさん、ちょっと優しすぎます。

「余計な心配をおかけしてしまって、すいませんでした。でもわかってください、艇長が命令するからではないんです。 私には村でまだやることがありますから。一緒には行きません、」

言い終わらないうちにシエラは振り返ると、歩き出した。

あと一言いえば涙が出るから。
もう一言は、余計なことだから。
約束は一番負担になるから。

いつでも憧れのシド・ハイウィンドでいて欲しいから。

 

うつむいたら涙がこぼれたので、あわてて空を見上げた 。 暗かった空がぼんやり白んできた。

出発まであと少し。