旅の途中

Captain Call  

 

 「ちっ、しつこい野郎だ。」
俊足を誇るハイウィンドが全速力に乗らない。鳥か何か吸い込んだのかもしれない、エンジンが不調だ。

「このままじゃぁ、神羅を案内することになるぞ」
ぎりぎりと歯軋りをするバレットは、シドを睨んだ。
「んなこたぁ、おめぇに言われなくったって百も承知だ!」
珍しく操縦室にいるユフィは
 「降りて修理しようよ、っていうか、降ろしてよ・・・」
言うだけ言うと、唇を震わせた。
  「くそ、出力が落ちてるな。けっ、全速力ならあんなハエみてぇなゴミなんざ二秒でおさらばなのによっ。」
  「どこかで修理できないのか?シエラさんに頼んでみたら・・・」
ドイツもコイツもすぐにその名前を口にしやがる、
  「フン、アイツに頼むぐれぇなら、今すぐここで体当たりでもしてらぁ!」   「やーー、やっぱ、降ろしてぇ〜」
  「シド、そうしようよ、ね。シエラさんに」
  「やかましい!!金輪際シエラの名前を、・・・?」
船酔いはユフィだけではないようだ。耳が垂れ下がって鼻が乾いている。
「きもちわるいよ…オイラ…」  

 腕組みをして一点を見つめるシドの蒼い目が、ふと曇ったのに誰も気がつかなかった。  
 「・・・・・・」 
 「気が変わったのか、」 バレットが身を乗り出した。 
 「・・・よし、決めたぞ。」
真顔のシドは、無線をオープンにした。

  「こちらハイウィンド。ロケット村、応答せよ」
腕を組んでバレットが頷いた。
  「それが妥当な選択ってもんだ」

  【ga---shya---ga---za---】
  「耳が痛いよ」 耳を倒しても聞こえる不快な雑音には閉口だ。

   「あ、つながった」  

  【---shya---ら、bii--ga---むら---エラ---です---】

  「シエラ、聞こえるか?」 

 【---ちら、---ット村、こちら、ロケット村、シエラです、】

山陰を抜けて、途端に電波状態がよくなった。

   「シエラか、オレだ。もう一度返事しろ!」 

 【よく聞こえます、艇長ですね!ご無事ですか!?】

  「あったりまえだ。そう簡単にくたばるもんか!いいか、一度しか言わねぇからよく聞けよ。・・・今から帰るぞ」

  「シド、やっぱり素敵だわ、ねぇ、クラウド」ぱっとティファの顔が輝いた。

 「神羅の飛空艇なら相手に不足はないさ。」アルテマウェポンなら、ひょっとして機体ごしにぶった切れたりして、クラウドは武者震いを覚えた。

   【・・・現在位置を教えてください、そこから何が見えますか?】

  「よく聞けよ、ここから見えるのは・・・おめぇの顔だ!」  

 「お、オジさん・・・」乗り物よいも吹っ飛ぶような台詞に、ユフィが3歩、引いてしまった。  

 【艇長!・・・わ、わかりました。受け入れ準備をします。特別必要なものはありますか?】

  「補給一式と、それからおめぇの出迎えだ」

  【・・・・・・】

  「どうしたぃ、返事は!?」

  【す、すいませんでした。あの、光栄です。】

  「以上だ、切るぞ」

  【は、はい。了解しました】

ぶつっ・・・ 誰も口を挟めない、沈黙の操縦室。

 こんな時に皆の前で堂々と愛の告白をするなんて。からかうどころか、ティファもユフィもじーんときてしまって目が潤んでいた。 シドはまだ真顔で、クルーに指示を飛ばした。

   「いいか、フライト・スケジュールだ、この通り飛ぶんだぞ。高度に気をつけろ。レーダー!しっかり見張ってろよ。」

 しつこく追いすがってくる神羅の飛空艇は、ニブル山の山陰に隠れてやり過ごした。 ハイウィンドはそのまま停船した。

 クルー数人を伴って、シドは左エンジンの不具合を応急手当した。

   「急げ、奴らがロケット村に着くまでにサンゴの谷に行くんだ。」

   「ちょっと、シド!シエラさんはどうするの!」

  「そうだよ、ひどいよ、あんまりだよ」
自分のことだけで精一杯のユフィですら、驚いた。 今度はシドが沈黙した。手だけは休めずに修理を続けた。
  「何とかいったらどうなの?」 ティファの拳がふるえた。
  「嘘・・・ついたのか?」  クラウドも驚きを隠しきれない。
  「早い話、そうなるな」

  「て、てめぇ!」 胸ぐらを掴みあげてバレットは目を血走らせた。

  「離せ、オレ様は忙しいんだ」壁にシドを押しやると涙を浮かべて抗議した。  「よりによって、このやろうーーー」
  「神羅の連中は、さっきの無線を傍受して今ごろ村だ。その隙にこっちは谷へ行くんだ。オレ様の完璧な作戦勝ちだ」不敵な笑みを浮かべた。

 ばきっ!

ヘヴィー級のパンチが炸裂した。ゴーグルがエンジンルームの隅まで飛んでいった。

  「ふん、思った通りのゲス野郎だ。手が汚れらぁ!」 投げ出されたシドに、クルーたちが駆け寄った。

   「こら、誰が手ぇ休めていいって言った!持ち場を離れるな。」

   「見そこなったわよ、シド・・・言い訳ぐらい聞きたいものだわ」 言い終わらないうちにきびすを返して、ティファも立ち去った。

   「オジさん、いくらなんでも不味いって・・・。これ、はい。」 見かねて、ハンカチを差し出した。
  「シド・・・本当に・・・?」 よろよろっと立ち上がったシドは、げんこつで口元をぬぐった。
  「オトコはよ、いい訳なんざしないんだ」
弾丸オヤジめ、本気で殴りやがったな。覚えてろ、きっとお返ししてやる。ぷっと吐き出した血の中に白いものが混じっていた。

忘らるる都、水の祭壇への回廊は、夜でなければ開かない。古代種の鍵を手にしたクラウドたちは、サンゴの谷を走り抜けていた。

ハイウィンドは、本格的な修理をしていた。

やがて夜が更けて、シドはひとりデッキでメテオを見ていた。すっぱりと切り取ったような半月が光を失っていた。
上手くいったみたいだ、神羅のゴミどもは今ごろ血眼でオレ達を捜しているに違いない。
弟子どもも操縦がうまくなった。
高度をぎりぎり低く保って、レーダーから逃れられた。
バレットに殴られた頬が腫れあがって、男前が台無しだ。
タバコを吸うのもいささか不自由だ。

それでも懲りずに左のほうでくわえて、ふーと煙を吐いてみた。
コーヒーカップを2つ持ったティファは、まだ目が怒っていた。  
 「あん、ねぇちゃんは行かなかったのか?」 何も答えず片方のコップをシドの前に突き出した。
  「いらねぇよ。針の塊飲み込むみてぇだろうからな。」 なおも押しつけてくるコップを、シドは仕方なしに受取った。
  「飲めばいいのよ。シエラさんの気持ちがわかるはずだわ。」 シドは少し冷めたコーヒーをぐいっと一気のみした。
口じゅうに激痛が走ったはずだが、眉間にシワを一本作っただけで飲み干した。 デッキにもたれて小さなため息をついたティファは、うつむいた。
  「シエラさんね、エアリスにひとつだけ頼んでたんだって。」
蒼い目だけをティファに向けた。
  「『艇長は疲れがたまると声がかすれてくるんです』って、それで喉が弱いから高い熱が出るって。」
メテオから吹く風が、黒髪をふわりとなびかせた。
  「でもほら、声かすれてきて心配していたら、タバコの吸いすぎだっただけだったでしょ。疲れてるのかどうかなんて、シエラさんにしかわかんないのよ。」

 自分からどんどん離れていくクラウドが、シドに重なった。私はとてもあの場所に足を踏み入れる勇気はない。クラウドがエアリスを失ったあの場所に。   「『薬が嫌いだけど、旅に出たら寝てもいられないだろうから』って。これ見てよ、預かったのよ。エアリス、1人で行っちゃったときに書き置きしてあったの。他に何も言わないのにそれだけは!」
やっぱり、あなたにはかなわないってことね。
  「シドは帰れる場所があるから、あんなこと言えるのよ。今からでも遅くないから正直に話して謝るべきだわ。でないと、帰る場所、なくしちゃうよ」

 エアリスを泉の中へと還すクラウドの背中に、笑みを浮かべる自分が確かに存在した。もう一人の私が呟いた。『これでクラウドは私だけのもの』どころか、クラウドは心を閉ざしてしまった。

口元がゆがんだことに気がついたのに違いない。

思えば思うほど、クラウドは離れてゆく。 罰が当ったんだ・・・ シエラさん、あなたがどんなにシドを思って心配しても、伝わってないよ。
私と同じだよ。
ダメかもしれないよ。
とうとう泣き出してしまった。

「なんでおめぇが泣くんだよ、ハラがたつなら最後まできっちり怒れよ」
「だって・・・もし私が同じことをされたら、堪えられないわよ!!!」
あーあ、弾丸オヤジが見たらまーた何言うかわかったもんじゃねぇ これだけは言いたくなかったが、しょうがねぇ。
「あれはよ、・・・暗号、だ。」
「えっ!!?」
「知ってるよ、あいつも。」
「そんな・・・」
「オレ様とアイツだけのな」
 「じゃあ!」
 「わかったら、もう泣くな。」

肩を抱かずにはいられなかった。健気に娘がひとり耐えているのを、無視できるようなシドではなかった。
  「お互い、辛いところだな・・・」

違うの、シド。
ばちが当ったのはやっぱり私一人だ、そうだよね。わたし、ひとり・・・