酒場にて

 

「天下のソルジャーさんがこんな場末の酒場で遊んでるとはなぁ」

「高級クラブのおねぇちゃんはね、きれーだけど、肩こっちゃうんだオレなんか。 あ!おっちゃん、オレもビールビール、あんまり泡たてないでよん」

「あんたらみたいになりてぇって、若い衆が頑張ってんのにな」

カラカラと陽気に笑う顔は戦場で会わない限り、それとは気づかない。お気楽そのものだ。2人とも気さくという点では、とても似ている。

「そーゆーことはそーゆー人にお任せしておきゃいいんでないかい?」

身振りで誰かさんを真似したらしいが、よくわからなかった。

「そんなもんかねぇ」

つんつん頭にゴーグルの男は、とりあえずビール、と、大ジョッキをぐびぐびとあおる。口の周りが泡だらけでいよいよおっさんになった。おつまみの枝豆はしっかりキープしている。
取るな、
ぎろりと睨みつけられて、黒髪の男は是非聞きたかったことを思い出した。

「でよ、ほんとにあんときさぁ、」
あの男と差しで、本当に?馬鹿って?言ったの??と、身を乗り出したところで、言葉をさえぎられた。

「お喋りはおしまいだ。静かにしろ」

スポットの中に歌手が現れた。
初々しい雰囲気に席がざわめく。
ピアノが語り始めると潮が引くように店じゅうが静まった。

 

 


「いい歌だな、流行ってんのか?」

静かな拍手が店に満ちた。

「あん、おめえ知らねぇのか!」

紫煙がいっぺんに吐き出されてそこいらじゅう、もやってしまった。

「聞いたことない歌なんだよね」

なんだなんだ・・・、灰皿に押しつけた煙草はまだ半分ぐらい残っていた。

「神羅の将来も暗いな、オレ様が紹介してやろう」

ちょっと得意な顔になって席を立つ。

「紹介って!?」

 


男はピアノの傍らで拍手を受けている歌手に近寄った。薄暗いのに、歌手のほうで気がついた。

「あらシド、来てくれたの」

人目もはばからず飛びついてきたのを受けとめた。柔らかい金髪をくしゃくしゃと撫ぜさすると、はっはっはっと笑った。

「あんな情けねえ顔で泣かれちゃあ、来ねぇわけにはいかねえだろうが」

ついでに鼻をちょこっとつまんだ。

「うれしいな、シド大好きよ」

シドはとても気分がよかった。周囲のざわめきなど、知ったこっちゃなかった。

「そうかそうか、元気になったな。おおそうだ、お前のその歌を今日初めて聞いたやつが挨拶してぇって言ってるぜ」

本当はコイツをこんなところに置いておきたくないのだが、ヤツがどんな顔をするかを見てみたい気もした。

「あの、綺麗な瞳の人?」

ソルジャーってのは何につけ目立つもんだと、シドは呆れた。

「なんだ、見てたのか」

美しい歌手の手を取ってカウンターに戻ってくるシドに目が点のザックスは、柄にもなく緊張していた。

「初めまして、お会いできて光栄です。ソルジャーさんね」

白い手が差し伸べられる、まるで天使だ。壊れ物を扱うように彼女の指先を掌に取ると、膝を折って手の甲に口付けをした。

「きれーなおねーさん、ごめんよ、今日初めて聞いたんだ。その…、歌、すげいい。おれザックス、なりたてソルジャーなんだ、はは」

後ろを向いたら羽根が生えてるんじゃないか、ザックスはかなり本気でそう思った。お友達のおねーさんはたくさんいるが、全然違う何かを感じていた。

「ありがとう、嬉しいわ」

こんな笑顔、見たことない。酒場で歌手やってていいのか?おかーさんが怒るぞ。ザックスはなにやらまじめに心配になってきた。


むふふ、ソルジャーめ。あんたはこの娘の何なんだって、顔にかいてある!教えてやろうか?オレさまはなぁ…

「おめぇも名前、売っとけよ」

促されてようやく、ああそうだ、忘れるところだったという風情に一抹の不安を感じる。こんなんで魑魅魍魎の跋扈する芸能界を生きていけるのか?
おれ、守ってやろうかな・・・
ちょっとその気のザックスに、しゃぼん玉がぱちっとはじけるような笑顔をみせた。

「あ、そうね、…私、ジュリア。今度ミッドガルでデビューすることになったの。誰も知ってる人のいない街だから、心細くて。そうしたらシドが、」

見上げる瞳が、この2人の強い結びつきを何もかも物語っている、とザックスは思った。あーあ、緊張して損した、と、いつものお気楽な顔に戻って笑った。

「すごいじゃん、で、いつ?」

ところがその笑顔は、ジュリアの心をぐっと引き寄せるのには十分だった。今度はジュリアが緊張する番だった。

 

 

 

 

 

 

「あ、シド!ちっとも電話くれないんだもん!あのね、」

【…おめぇ、今何時だと思ってんだ?いくらお前でも怒るぞ】

「でも〜〜」

【でも〜〜じゃねぇよ、なんかあったのか?】

「…寂しいの……それでね、」

【すっかり売れっ子のジュリアさんがどうしたぃ?】

「だって、シドにも会えないし、それに、その…」

【オレ様だって仕事してんだぞ、お前だって仕事だぞ、しっかりしねぇか、】

「……うん、」

【よしよし、次のステージは見に行ってやっからよ、】

「あ、ありがと、」

気のない返事、ジュリアは自分で自分がおかしかった。

【…ジュリア、オレ様に何か隠してねぇか?】

「何か、って何?」

【お前、…銀髪男と会ってるだろう、】

「ちっ、ちがうわ、セフィロスじゃないわ?」

【セフィロスじゃなけりゃ、誰だ?】

「あっ!!」

シドに隠し事なんてできっこない、またやられた。

【へん、ひっかかったな】

「も〜〜〜シド!ずるい〜〜」

【ざまあみろ、このオレ様に隠し事なんぞするからだよ】

別に隠すつもりじゃなかったのに、今日これからお話しようと思ってたんだから、とっても悔しい。シドの馬鹿。

「……ごめん、でも、話そうと思ってもシド、空の上だもん!電話してもつながらないじゃない…」

【わーったよ、泣くな!電話で泣く女はずるいんだって、教えてやったろうが】

「泣いてなんかいないわ。」

【よしよしわかったから、…寂しいんだったら電話してくるところが違うんじゃねぇか?】

「んもう、シドの意地悪!」

【のろけ話しなんかすんなよ、すぐ切るぞ】

「そんなんじゃ、……」

【オレ様に聞かせたいほどよろしくやってんだな】

「え、あ、その…」

【いちいちオレ様にお許しをもらわなくったって、お前ももう大人なんだから、】

「う、うん、…」

【自分のしてることに責任とれると思ったら、ヒトのいうことに縛られるこたぁ、ないんじゃねえか?】

やっぱりシド、優しい。

「そ、そうよね。わたし、シドに言えないような恥ずかしいことは全然してないわ、ほんとよ」

【なら、かまわねぇんじゃねぇか、】

「うん、でもね、彼ったらひどいのよ」

【おおう!『かれ』がどうかしたか!?】

「真面目なはなしよ、ちゃんと聞いて!」

【そりゃすまねぇ、んで、かれがどうしたって?】

「私のことを、子供扱いするの。この前も…」

【早速いいことがあったか?】

「違うわよ、」

甘いお話をたっぷり聞かせてくれてとてもありがたかった。シドはちゃんと聞いてはいたが、脳みそに染み込まず、話の内容はタバコの煙と一緒にぷかぷかそのへんに漂うばかりだった。

【一つだけ忠告しとくぞ。あいつはなかなかの男だが、ソルジャーだ。】

「…………うん」

【本気になるなよ、遊びと割りきれる自信がなけりゃ、つきあうのはよせ。】

「…………うん」

【オレ様が言えるのはそれだけだ】

「…………」

セフィロスと一般兵何人かを御伴に、ザックスを送って行ってやったのは数日前の台風の日だ。帰還したらまた一緒に酒でも飲むとしよう。
しっかり釘さしてやる、ジュリアは可愛い従姉妹だ、丁寧に扱えってな。