旅の途中

敬愛

 

壊れたミディールの診療所で再び気がついたティファの第一声は
「ありがとう、おかげで…」だった。
白い手の中に輝くペンダントトップは、希望の光。
「おう、済まなかったな。妙なもの押しつけちまって」
ダインから預かったエレノアの形見の品、ミスリルのペンダントは格別、お守りとして優れたものというわけでもない。

「いつもバレットがそばにいてくれるみたいで、私…」
言葉を詰まらせるティファの顔を、今は素直に喜ぼう。
「よかったな、お前がよくがんばったからだよ」
マリンにするように、黒髪を撫ぜ撫ぜしていると、何ともいえず心が落ち着いた。
「わたし、うれしい・・・」
ぽろり、ぽろり、こぼれる涙が可愛かった。
ちっとも胸が痛くない。
どころか、マリンをあやすようにやさしく、そっと、ティファを胸に抱いていた。
わかってくれる、よな、ミーナ。

こんこん、僅かに開けてあったドアをノックする音に、静かに振りかえると顔を引きつらせたシドが火をつけていないタバコを噛み締めて立っていた。上ずった声で尋ねるしかないシドは、
「どどど、どーした?何かあったのか?」
相手が違わねぇか?ティファ!とは、聞けなかった。全く動じる様子のないバレットに、少しは気を取り直したが見れば見るほど、無茶なとりあわせだ。
ティファもティファで、心から信頼を寄せる人のそばで安心しきっている。
胸に埋めた顔を上げはしたが、全く離れようとしないし、見ている側もそんな必要を感じさえもしない。
一体なんだ、どうなってるんだこの二人?

頬がほんのり赤いのは、元気が出てきたからか?それとも照れているのか。
「シドも、ありがとう。わがままを許してくれて、どうもありがとう。」
へっ、シド「も」ね。ありがとうよ、ねぇちゃん。

「さ、もう少し休めよ」
このあたたかい声。
素直に目を閉じるティファ。
男と女、というよりは、あにと妹、いや違う、父と娘?
ティファの本心がわからない。
これじゃあ、ちぃと、クラウドが可哀想だぞ。
それにしても…
ねぇちゃんの信頼を決して裏切らない、この野郎!

 


風が心地よい。
飛空艇は確かにシド自慢の船だ。
でも個人的にはタイニーブロンコのほうが好みだ。
それは風をじかに感じるからだ。
頬を打つ空気の僅かな変化で、空を見極めなくてはならない。
五感のすべてを働かせて瞬時に反応すると、まるで自分のからだに羽根が生えたような幸せに酔えるのだ。
だから飛空艇で一番好きな場所は、ここ、デッキだ。
タバコを吸うには向いているとは言いがたいところでもあるが。


「そうか、クラウドが。」
ドアの隙間から2人の様子を見てしまい、怯えたように走り去った――シドの言葉に、参ったなぁ、と、頭をぽりぽり掻くばかりのバレットだ。
「んーー、ティファに悪いことをしたなぁ。」
そうくるか!よくもまぁしゃあしゃあと!
シドは頭がいたーくなるのをタバコの煙で誤魔化した。
「(馬鹿らしくてキョーミもないんだが)お前さんはどうなんだ?」
心から嫌そうに聞いてみた。
デッキの縁から(ぶっ壊れた)診療所を見下ろすバレットの口から聞きたくもない台詞が連発されるのかと思うと、それだけで質問してしまった己を悔いるシドだ。
「よかったじゃないか、あの二人が生きて帰って来れてよ。」
意外な発言、ふん、誤魔化していやがる。
「帰ってきてほしかったのは、ねぇちゃんだけじゃなかったのか?」
この質問にも、動じることなく静かなバレットである。
「たしかに、アイツはそうだよな。もしかしたら神羅の改造人間かもしれねぇ。」
同世代だなぁ、改造人間・・・いまどき迂闊に使っちゃ、人権侵害ものだ。
「いつまた、裏切るか。わからねぇ。けど、ティファにはアイツが必要だったんだ。だから一緒に帰って来れて、よかったんじゃねぇか。」
無理して笑っていやがる。ねぇちゃんに必要なのは、あんなツンツン頭の小僧なんかじゃないってぇのに。

ばっ、と振りかえってバレットは不敵な笑みを浮かべた。
「あんたの聞きたかったのとはちょいと違ってたみたいで残念だったな。
 確かにティファのことは大好きだぜ、仲間としてな。けど、お宅らとはどうも違うみたいだ。ははは、」
瞬間、シドの脳味噌が沸騰した。未公認ながら最短記録のようだ。
「何だ!?お宅ら??」
むははは、取り乱してるぜ、艇長さんよ。
「オレ様とシエラがどうだってんだ!!」
勝利を確信した男は、肩を揺すって歩きだした。
「オレは『シエラ』さんなんて一言もいっちゃいないぜ」

耳から湯気が出た。
よくもよくもよくも!コケにしやがったな!!
覚えてろ!!
し、シエラはなぁ、
ぐっ!む、胸が!
痛てぇ。
違うぞ!あいつの名前が出るだけで、打ち上げ失敗を思い出すんだ。
それで胸がむかつくんだ!!!(また余計なタグ打つんじゃねえ!
わかったか!!!

ひそひそ
『オジさん、だれに言ってるんだろう?吠えてるよ。』
ぼそぼそ
『このごろあの二人、変だよね』
ひそひそ
『変ははじめっからだよ』
ぼそぼそ
『オトナってさぁ、面倒なんだよ、いろいろね』
ひそひそ
『ふぅ〜ん』