旅の途中

 

Kiss

 

水面のざわめきは次第に休まるが、見つめるまなざしから厳しさは消えない。

ミントブルーの水面に無数に浮かぶあらゆるものを食い入るように凝視する視線、湖の奥底に呼びかける声にならない声

緊張に耐えられなくなったのか いつものことか
ゴーグルに挟んだタバコの箱をむしり取るのはシド。
さすがに気が引けたか、仲間に背を向けて 
珍しく遠慮がちに煙をはいた。

「クラウド・・・」
よもや自分がこんなしんみりした声を出そうとは、ユフィは無意味に顔があかくなってしまった。

ばしゃばしゃ・・・
静寂を破る水音がして、バレットが湖に入っていく。木切れやら何かばかりの中を割って進む大きな背中を仲間の誰もがあっけに取られて見ているだけだった。

ライフストリームに落っこちてもう5分。長く星の命にさらされると、自我が崩壊してしまう、所謂魔晄中毒。なぜか確信を持ってバレットは水の中を進んだ。
なぜ?
自分でもわからない。
けれど・・・
突き動かされるように。

肩まで水に浸かっていたバレットがふっと水没してしまった。
「ちょ!ちょっと、オジさん。」
預かっとけと持たされたハンドガンを抱えたユフィは、真っ青になってシドを見上げた。
「やばいぞやばいぞ」ジャケットとゴーグルをはずすシドも、しかしどうするわけにもゆかず、ヴィンセントも無言でマントを外して水際に進んだ。
「バレットーーー」
水だけはどうしてもダメなナナキは声を限りに叫んだ。


「ぶはっ!」
30秒ほどの静寂を破って、バレットは水面に顔を出した。
「こいつを頼む・・・」
投げてよこしたのはクラウドだった。
肩で息をするバレットはしっかりティファを抱いていた。

 

 

波打ち際に座りこんだバレットはティファに息を吹き込んでやった。
奇跡的に水を呑んでいないのでことはスムーズだった。
「う、」
僅かに苦痛の表情を浮かべたから、大丈夫だろう、多分。
バレットはそれでも硬い表情で、とび色の瞳が開くのを待った。
冷え切ったからだをタオルで包む。

オレという男はつくづく、大事に思う女とは生きるの死ぬるの、
そういう場につき合わせてもらう星回りなんだな・・・

長い黒髪を丁寧に拭いてやりながらバレットは、この子とはそんなことが覚えているだけでもう3回目だとやけに冷静な自分が不思議だった。

「げほっ!げほっ!」
ちらと振り向くとシドに水を吐かせてもらっていたクラウドが、碧い目をおぼろげに開いて世界を見渡していた。
「そっちはどうだ?」
しぶとい野郎だぜ、安心したシドはまたタバコを一服。
ボロボロ泣きじゃくるユフィに無表情を装い見守るヴィンセントが、ハンカチをさしだした。
バレットも微かにうめき声を上げただけのティファに呼びかけてみた。
そっと優しく、慎重に、耳元に・・・
「・・・ティファ、」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、」
髪を撫ぜてやるとティファは穏やかに微笑んだ。
バレットも少しだけ笑ってみた。
よかった。
オレが分るみたいだな。
よかった。
クラウドのことを心配しているみたいだな。
それでいい。
いいんだ。
それで。
・・・・・・・・・・・・よかった。