コレルの青空〜夕焼け〜

 

 

ティファが急に寝込んじまった。
40度の熱が出て、本当に動けなくなった、びっくりしたぜ。
何の前触れもなくてよ、突然だったんだ。
テリーにお、おっぱいをだ、やっていたらあの野郎め。いや、違うんだ、ティファがよ、
「なんか、飲まないわ、痛いし。」
言いおわらねぇうちになんだ。
「さむい…」
暖炉の前によろよろ、で、本当にガタガタ震え始めた。
オレはよう、何がどうなったかわかんねぇからよ。のんきにハリーのオムツを換えていたんだ。そしたらテリーがだ、まだハラ減ってるんだろうからびーびー泣き出すんだ。そこらへんでさすがに変だと気がついたんだ。

見たら、唇がまっしろ、てぃうか、思い出したくない色なんだ。
本当に口が聞けないことって、あるもんだ。
一言だけ、振り絞るみてぇに
「た、すけ、て…」
情けねぇんだが、オレは身がすくんだ。

 

本当に情けねぇんだが、マリンが大声をあげなかったらうろたえるだけだった。やっぱりここ一番はマリン、おまえなんだ。
「どうしたの!ティファ!ねぇ」
それで正気に戻ったんだ。
うずくまるティファを助け起こして初めてすごい熱だとわかった。
「どうした、どこが痛ぇ?」
うわずっていたかもしれねぇが、オレの問いかけにようやく瞳を開いてくれた。体が硬直していた。見えない何かに縛り上げられているようだ。それでも必死に訴えかける、声にならない声が助けを求めた。
「こ、こ、いたい…」
示したのは豊かな胸だった。

言われるままにふくよかな乳房に触れると、いつもとまったく違うのに驚いた。岩のように硬く、熱くて、ずきずきしていた。
「いっ!」
そっと触ったつもりなのに、ティファは悲鳴をあげた。
オレにはお乳はないから何がどうなっているのかわかるわけがない、西日が明日も晴れることを告げている、オレは心配そうに見守るマリンにすがるように頼んだ。
「マリン、ドクターのところまで行けるな」
けなげな瞳が潤んでいたが、マリンは強い子だ。小さくうなずくと、唇をきゅっと結んで駆け出した。

 

 

村が復興するにつれて、人も集まり所帯持ちも増え出した。生活のいろいろがスポンジに水が吸い込まれるのと同じ速さで行き渡ってゆく。診療所ができたのが何よりありがたい、夫婦もので赴任してくれた、村の大事な財産だ。

マリンが駆け出した後、オレはもう一度ティファの胸を見た。カチカチに尖って、白ではない乳がにじみ出ていた。異臭がした。
オレは思い切ってティファの乳を吸ってみた。
「うっ!」
ティファとオレはほぼ同時にうめき声を上げた。
膿だ。
タオルを口にあてがって乳から出たものを確かめた。ちょっと血の混じった、やはり膿だった。
もう一度、乳を吸ってみた。
「あっ!」
今度はティファだけが声をあげた。
オレの口の中は血と、膿でいっぱいになった。新聞紙を手繰り寄せて吐き出した。何度も、膿を吸い出した。

オレの口の中は、もう感覚が麻痺して、じんじんしている。
それにつれて、カチカチだった右の乳房は、これも不思議だよな、左は何ともないんだ、少し緊張が解けてきたように思えた。
ティファの体の震えも収まってきた。

「ティファ!とうちゃん!」
気丈にドクターを呼びに行ってくれたマリンが、転がるように戻ってきた。ドクターとナースは、部屋の臭いですぐに診断を下した。
「気が利くご亭主で、よかったですね。乳腺炎でしょう」

一番の治療法が吸い出すこと、だなんて、人間の体ってぇのは複雑なのか単純なのかわからないもんだ。
「放置していたら切開でした」とか、ドクターは脅かす。抗生剤を処方してくれて、「服用している間は授乳を休みましょうね、」なんてナースもおおごとなのか、どってことねぇのか、わからない言い方で帰っちまった。


ちびどものミルクを、いつもより多い目に作った。
今夜はかあちゃんをゆっくり寝かせてやるんだ、そうしないとずーーっとおっぱいなしでオレが相手することになるぜ、ベイビー。わかってんだかどうだか、ちびどもときたらやっぱりマイペースだ。

激しい発熱は30分ぐらいで収まったからよかったものの、店は臨時休業にした。まだ38度ほどの熱はある、ティファを言いくるめて先に休ませた。

マリンがティファのそばにくっついて離れないのがふしぎだった。おかげでオレたちオトコどもはじたばたと寝る支度をすることができたが。
小さいと思ってたのにマリンもオンナなんだ、ベッドサイドに寄り添う姿をそっと覗いて感じた。母と子、じゃあティファが気の毒だが、姉と妹かもしんねぇ。オンナの友情が漂っててよ、こいつら2人とも、血のつながりをなくした経験をしてたんだって、そんなことがふたりを強く結んでるんだなって胸があつくなってよ。

オレがベッドルームのドアをノックしたら、マリンが安心したような顔で振り返ってくれた。だからますますオレはマリンが可愛いくて仕方ないんだ。
すこし言葉を交わしてマリンは「おやすみ」を言った。
このごろはオレやティファがベッドについて来なくてもいいんだそうだ。

オレもティファと少し言葉を交わした。
ちびたちはねたよ、とか、マリンがいてくれて助かったとか、明日も無理しないようにとか、まだ痛むのかとか…
言いながらベッドにもぐりこんだ。
いつもよりシーツも熱いのがわかる。
ティファの体もまだ熱い。
表情は落ち着いているが、瞳が潤んだ感じだ。
ぎゅーっと抱きたいところだが、今夜はそっと前髪を撫ぜるだけにしよう。
枕に貸している腕を抱いてくれた。
そしてオレの掌を右の乳房に導いた。
何事もなかったかのように、ふんわりと柔らかかった。
痛くないか、と聞くと、まだちょっと、という。
じゃあ今日はこれ以上は触らないでおこうと提案すると、ティファは小さく頷いてオレの傍らにぴとっ、とくっついた。
オレはティファにくっつかれて寝るのがすきだ。
おやすみのキスをして目を閉じた。
とろけるような肢体を感じつつ、ねむりに落ちてゆく至福のとき、ティファが耳元で囁いた。
「バレット、今日はいろいろありがとう、お誕生日だったのに、ごめんね」
あぁ、そうか、今日、か。
胸に置かれた細い腕が、やさしく愛撫する中で眠りにつけるのは、何よりのプレゼント…なん…だ…Zzzz